ベネッセグループ参画の理由と今後の事業展開について──「ENGLISH COMPANY」運営のスタディーハッカー代表取締役 岡 健作氏に聞く

英語特化型パーソナルジム「イングリッシュカンパニー(ENGLISH COMPANY)」を運営する株式会社スタディーハッカー(以下、スタディハッカー)は、2020年1月17日、株式会社ベネッセホールディングスに発行済株式の50.1%を譲渡する株式譲渡契約を締結し、ベネッセグループに参画することを発表した。本稿では、スタディーハッカーの代表取締役を務める岡 健作氏に対して、今回のベネッセグループ参画の理由と今後の事業展開の方向性について話を伺った(以下、敬称略)。

撮影:多田圭佑

ベネッセグループ参画の背景

── 本日は宜しくお願い致します。まず、貴社がベネッセグループに参画した背景について教えて頂けますでしょうか。

岡:宜しくお願い致します。一言で言えば、ベネッセさんと組ませて頂くことによって、弊社がビジョンとして掲げている「Study Smart」という世界観をより一層広めていくことができるのではないかと考えたことが最も大きな理由です。具体的な内容をお話させて頂く前に、議論の前提を少しだけご説明させて頂きます。まず、この「Study Smart」というのは、「学びをもっと合理的でクールなものにしよう」というコンセプトです。そもそも、学びの世界においては、努力偏重主義というか、過剰な精神性が支配するような風潮がこれまでありました。特に、受験勉強の世界では、「四当五落」という言葉があるように、「たくさん勉強した方が偉い」等と言われがちな側面はまだまだ根強く残っていると個人的には考えています。

編集部注:四当五落とは、「4時間睡眠なら合格/5時間睡眠なら不合格」という意味。眠っている暇があるなら、その分を受験勉強にまわそうという考え方である。

その一方で、近年、教育工学的なノウハウが日進月歩で進化し続けています。それらの最先端の知見を活用し、皆様の英語学習を効率化したいという思いで、2015年に「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を立ち上げました。有難いことに、初年度からたくさんの方々にご利用頂きまして、業績は順調に拡大しています。ただ、事業が軌道に乗ってくると、当然ながら、我々のような教育系以外の企業による新規参入も増えてきました。

岡:もちろん、上記の事業者様の中には、ユーザー様の英語力向上に役立つようなプログラムを提供している企業もあるかとは思います。しかし、結局のところ、そのほとんどが「いっぱい勉強しよう」という方向性なのですよね。確かに「いっぱい勉強すればできるようになる」というのは非常にわかりやすいですし、「頑張っている自分が好き」という人間の情緒に訴えかける方法も一つのやり方としては有効なのかもしれません。しかし、同じ努力量を投入するのであれば、効率的にやった方が良いに決まっているし、その方が間違いなく成果も上がる。そして、その効率化によって生まれた新たな時間を学び以外の活動に充てて、より充実した人生につなげてもらいたいというのが弊社のスタンスです。たくさんの学習量をこなすこと自体を否定している訳ではありません。すでに科学的に効果が出る方法がわかっているのであれば、「努力偏重主義」で取り組む必要はないということです。また、「量が質に転化する」という言い方にも違和感を覚えます。効率的な学習方法を自ら発見しなくても、たくさんの効率的な方法がすでにあるのですから。わざわざ「車輪の再発明」をする必要はありません。

岡:ただ、そうは言っても、私たちがどれだけ大きな声で「Study Smart」を叫んだところで、圧倒的多数のプレイヤーが上記のような「量重視の」方向性でサービスを展開している以上、我々だけでその流れをつくることはなかなか難しい面がありました。そこで、ベネッセさんと組ませて頂くことによって、「Study Smart」の流れをより一層加速させることができるのではないかと考え、今回の資本業務提携に至りました。

ベネッセグループ側の狙い

── ベネッセグループ側としてはどのような狙いがあったのでしょうか。

岡:私から言うのも変なので、「プレスリリースをご覧ください」としか言えないのですが(笑)。ただ、言えることは、やはり「色々なご縁があった」ということに尽きると思います。あとは、「ベネッセ=よく生きる」というベネッセさんの理念に対して、我々側が非常に共感しているということが大きいです。

当社はスタディーハッカー社を連結子会社化することにより、社会人向け英語学習トレンドの新潮流である「短期集中型英語パーソナルジム」のニーズを取り込み、リカレント教育における英語教育サービスの拡充を図ります。また、両社の経営資源を有効活用することで、スタディーハッカー社の講師採用強化や拠点展開の加速を図り、更なる事業成長を実現するとともに、ベネッセグループとのシナジー創出にも取り組みます。

出典:株式会社スタディーハッカーの株式取得に関する株式譲渡契約締結のお知らせ

短期集中型英語パーソナルジムに対するニーズの高まり

── 御社の主力事業の一つである「短期集中型英語パーソナルジム」に対するニーズというのは、ここ数年で非常に高まってきているのでしょうか。

岡:そうですね。「ENGLISH COMPANY」事業については、2020年1月中旬の時点で、約8,000名の卒業生を輩出しています。また、拠点数については、2019年12月末時点では、東京/大阪を中心に、19 スタジオまで拡大しています。基本的には、どのプログラムもビジネスパーソンの方向けとなっていますが、年齢別に見ると、20代から40代の方が多いですね。就職活動や転職活動が理由でいらっしゃる場合もあります。

── 最初の立ち上がりから好調だったというお話を伺いました。

岡:はい、サービスを立ち上げてすぐのタイミングで、いきなり数百人の方々から受講申し込みがあったのはビックリしましたね。アスキーさんのメディアで取り上げられたことが起爆剤の一つになったのかもしれません。

── どのような方法で事業アイデアを着想されたのでしょうか?

岡:実は、我々の元々の母体事業である予備校事業では、かなり昔から短期集中型のパーソナルトレーニング形式でサービスを展開しており、この方法論を社会人向け英会話スクールの領域で展開すれば、より一層お客様の潜在的なニーズを満たすことができるのではないかと考えました。

岡:さらに、2018年12月には、英語学習の「自習コーチング」に特化し、トレーニングを簡略化することで価格を抑えた新ライン「ENGLISH COMPANY THE CONSULTANT」をスタートしました。従来の「ENGLISH COMPANY」とは異なり、「ENGLISH COMPANY THE CONSULTANT」は、コンサルティングがメインのサービスで、料金は半分くらいです。ある程度の英語力を既にお持ちの方にご受講頂くことが多いようです。最近では、特にこちらの伸びが大きく、2018年12月にオープンしたのですが、すでに4拠点になりました。

── TOEICのスコアアップを目指す方も多いのでしょうか。

岡:我々はTOEIC専門のスクールではないのですが、学習の進捗を計測するための客観的な指標として、TOEICのスコアを利用しています。ただ、「昇進条件の一つとして、TOEICのスコアが必要」ということで、TOEICのスコアアップを重視したいというユーザー様もいらっしゃいますね。

── 教育事業を展開する中で、ビジネスパーソンの自己投資に対する意識の高まりは実感されているのでしょうか。

岡:そうですね。我々も「STUDY HACKER」というメディアを運営しておりますが、現在では、約200万PVくらいあります。こちらの運営を通じても、自己投資や社会人の学び直しに対するニーズの高まりを感じています。

今後の事業展開の方向性について 

── 有難う御座います。今後についてですが、体制自体は大きくは変わらないということでしょうか。

岡:そうですね。ベネッセグループとなりましたが、オフィスは変わりませんし、その他の企業文化等についても、これまでと変わらずということになります。

── 企業文化と言えば、先日、岡社長のツイッター投稿を拝見しまして、「飲み会はやらない」というお話が非常に印象的でした。こちらは、どのような意図があるのでしょうか?

岡:飲み会って、面倒くさくないですか?(笑)もちろん、社外向けの接待等で必要となる場面はあるでしょうけど、私個人の考えとしては、事業活動を行う上で、社内の人間同士で仲良くする必要は必ずしもないと思っています。実は、我々も創業当初は社内で飲み会をやっていたのですが、なんというか、そこまで仲良くない人間と無理やり仲良くするのは辛いと思うんですよね(笑)当たり前ですが、仲良くなるために仕事をしている訳ではないので、オフィスについても、「出来るだけ長居したくないオフィス」「仕事以外は何もできないオフィス」をコンセプトに設計しています。卓球台も置きませんし、ブランコも置きません。これらが社員のモチベーションアップにつながるという話もありますが、やる気がない社員がブランコに乗って、モチベーションが向上するイメージが私には湧きません。

── そもそも、会社は仕事をする場所であり、手段が目的化してはいけないということでしょうか。

岡:当たり前のことを当たり前にやることが大切だと思います。事業が上手く行っていれば、チームはまとまるんです。もちろん、グーグルやフェイスブックのように、遊び心のある空間をつくることで上手く行っている会社もあるので、一概に否定はしませんし、否定する立場にもありませんが、私自身としては、そのようなやり方で事業を上手く展開できる自信がないということです。

── 有難う御座います。最後に、競合他社が増えつつある中で、今後の事業展開の方向性についてお話を頂けますでしょうか。

岡:まず、大前提として、事業が軌道に乗ったら、コピーされるのは当たり前なんです。コピーされるということは、事業が上手くいっている証拠なので、それ自体は別にネガティブに捉える必要はありません。ただ、コピーされたからといって、闇雲に差別化戦略に走るのは悪手です。何よりも大切なことは、今の事業を競合他社が追いつけないくらいに伸ばすことです。今回のグループジョインについても、IPOを目指していたら(監査手続等の関係で)3年はかかる可能性があって、スピードを重視するということで、決断した側面もあります。繰り返しますが、差別化というのは追いかける側がやることであって、追いかけられる方は、とにかくスピードを重視して、他社が追い付けないくらいに事業を伸ばして、ブランドを確立することが重要です。上記を踏まえ、今後も、「当たり前のことを当たり前にやる」を意識しつつ、どうすればユーザーの方々により一層喜んで頂けるかに焦点を当てて、高品質なサービスを提供していければと考えています。

>> イングリッシュカンパニー

【編集部追記】

上述の通り、イングリッシュカンパニーを筆頭に、プログリットトライズをはじめとして、国内には数多くのコーチング形式の英会話スクールが存在する。それぞれの英会話スクールの特徴については、関連サイト『英会話Z』で整理しているので、必要に応じて、参照頂きたい。

>> 英会話Z

執筆者:勝木健太

1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティング、有限責任監査法人トーマツを経て、フリーランスの経営コンサルタントとして独立。約1年間にわたり、大手消費財メーカー向けの新規事業企画/デジタルマーケティング関連のプロジェクトに参画した後、大手企業のデジタル変革に向けた事業戦略の策定・実行支援に取り組むべく、株式会社And Technologiesを創業。執筆協力として、『未来市場 2019-2028(日経BP社)』『ブロックチェーン・レボリューション(ダイヤモンド社)』などがある。