経済産業省が公表した調査結果によれば、IT人材の需要は拡大し続ける一方で、IT人材の数は減少に向かうことが見込まれている。結果、IT人材の需給ギャップは2030年までに最大で約79万に達する可能性があると試算されており、我が国における大きな社会的課題の一つとなっている。そんな中、ここ数年、この課題を解決するための手段の一つとして、「外国籍エンジニアの活用」が大きな注目を集めている。そこで、今回は、外国籍エンジニアに特化した人材紹介会社「デカルトサーチ」の代表を務めるアモニック・パスカル・ヒデキ氏に外国籍エンジニア活用のメリットや押さえておくべきポイント等を聞いた(以下、敬称略)。
アモニック・パスカル・ヒデキ
フランス生まれ。2003年にグランゼコールのENSEAを卒業後、2006年東京工業大学大学院情報理工学研究科計算工学専攻卒業。東京工業大学大学院では古井研究室にて、音声認識や自然言語処理の研究に従事。卒業後、英系証券会社での勤務を経て、2007年に弟ジュリアンと共に外国籍エンジニアに特化した人材紹介会社・デカルトサーチ合同会社を設立。日本のIT業界を盛り上げるために、そしてエンジニアのキャリア支援のため日々、奮闘する。
撮影:多田圭佑
── まず、デカルトサーチという会社について簡単に教えて頂けますか。
パスカル:デカルトサーチは、私が双子の弟のジュリアンと共に2007年に設立した外国籍エンジニアの紹介に特化した人材紹介会社です。創業以来、ITエンジニアを中心として、イノベーションの原動力となるようなハイクラス人材をクライアント企業に対して数多く紹介してきました。
── 人材紹介会社として、御社にはどのような特徴があるのでしょうか?
パスカル:弊社の特徴として最も大きなポイントは、リクルーター全員が元エンジニアであり、コンピューターサイエンスの修士号を保有していることです。また、外国籍エンジニアに特化する形で、13年間にわたり一貫して人材紹介事業に取り組んできたことによって培われた日本随一の外国籍エンジニアのネットワークの存在も弊社の大きな特徴であると考えています。
── 大手の転職エージェントと比べて、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?
パスカル:あくまで私見ですが、多くの転職エージェントにはエンジニアリングに関する知見が不足しており、それゆえ、クライアントが求める人材要件を正確に把握しきれていないケースが多いように思います。その一方で、既に述べたように、弊社の場合、リクルーター全員にエンジニア実務経験があり、コンピューターサイエンスの修士号を保有しているため、クライアントの技術部門の方々から信頼して頂くケースが多いと自負しています。また、弊社の場合、大手の転職エージェントと違って、求人の量ではなく質をとにかく追求していることも大きな特徴であると認識しています。
── どのような国籍のエンジニアの方を紹介するケースが多いのでしょうか?
パスカル:現状、欧米系のエンジニアをクライアント企業に対して紹介させて頂くことが多いですが、日本語能力が特に求められる場合であれば、中国人エンジニアを紹介させて頂くケースも多いです。また、インド人エンジニアも優秀な方が多いですし、最近では、バングラデッシュ出身のエンジニアに対する需要も高まってきています。
── 現場で活躍しているエンジニアに共通する資質があれば教えてください。
パスカル:コーディングスキルも大切だと思いますが、何よりも大切なことは、チームの中の一員として働くことができるかということです。いわゆるソフトスキルですね。また、最近では、日本企業の中でも、英語を話すことが出来る方が増えてきているため、日本語能力を有していなくてもそれほど問題ないというケースも増えてきています。ただ、外国籍エンジニアを採用する場合、最初の2〜3名は日本語ができるエンジニアを採用した方が良いと思います。
── 公式HPを拝見したのですが、クライアントとしては、ベンチャー企業が多いのですか?
パスカル:そうですね。ベンチャー企業の方々と頻繁にやりとりさせて頂いていることに加えて、弊社の場合、ベンチャーキャピタルの方々とも親密に連携させて頂いておりまして、彼ら経由で、人材紹介依頼を頂くことも少なくありません。あとは、弊社のクライアント企業としては、大手SIerの方々も多いですね。
── 日本人エンジニアと比較して、外国籍エンジニアの優れているポイントについて教えてください。
パスカル:一番は、柔軟性があることだと思います。一概には言えませんが、多くの日本人エンジニアは、良くも悪くも職人的で、一つのプログラミング言語やフレームワークに固執してしまうケースが少なくありません。一方、外国籍エンジニアの場合、コンピューターサイエンスの基礎ができていることが多く、状況に応じて、必要なプログラミング言語やフレームワークを柔軟に取り扱うことに長けた人材が多いのです。もちろん、日本人エンジニアの方でも、例えば計算機工学出身者の場合は、必ずしもその限りではありませんが、いわゆるプログラミングスクールでプログラミングを学んだばかりの人材だと、コンピューターサイエンスの根本が理解できていないケースが多く、パターン化された問題しか解けずに応用が利かないというケースが散見されます。
── そのような問題が生まれる背景には、何があるのでしょうか?
パスカル:一言で言えば、高等教育における数学の軽視が背景としてあると思っています。実際、表面的なエンジニアリング能力があったとしても、数学やコンピューターサイエンスに関する深い知識がなければ、実務においては使いものにならないようなケースも少なくありません。例えば、フランスでは、エンジニアを名乗る時点で、グランゼコールレベルの学術機関でエンジニリングを学んでいないと話になりませんが、日本の場合、大学でソフトウェア開発を体系的に学ばずに、たった1ヶ月程度の企業研修だけでエンジニアを名乗っているケースも多く、それゆえ、「パターン化された問題しか解けない」という状況に陥っていることも多い。これは日本の未来にとって非常に大きな問題だと思っています。
── ちなみに、技術レベルでは、アジア系よりも欧米系のエンジニアの方が高い等の傾向はあるのですか?
パスカル:一概には言えませんが、最新テクノロジーの多くが米国発祥であること、それゆえ、文献の多くが英語で書かれていることを考慮すると、欧米系のエンジニアの方が先端テクノロジーに対するキャッチアップ速度という点では、アドバンテージがあるのかもしれません。
── 経営者の中でも、外国籍エンジニアを採用する意欲は高まっているのでしょうか?
パスカル:グローバル展開を目指している企業の場合、特にその傾向が強いと思います。また、組織におけるダイバーシティーの醸成を求めて、構成員の国籍を多様化することを意識している経営者も増えていると感じています。
── 有難う御座います。最後に、日本の経営者に対してメッセージをお願いします。
パスカル:ハードウェアありきの時代においては、世界的に見ても、日本人エンジニアは稀有な能力を備えた存在でした。しかし、ソフトウェア全盛の時代においては、必ずしもそうとも言い切れないと思っています。最近では、ほとんどの経営者は、エンジニア採用の重要性については深く理解しています。しかし、今回、お話させて頂いた日本人エンジニアが抱える課題や外国籍エンジニアの持つ優位性等については、まだ十分に理解しきれていないケースも多いのではないかと思います。是非、一度、外国籍エンジニアの活用を検討して頂けると幸いです。
補足情報
デカルトサーチ合同会社が運営するオンラインメディア「HRmedia|エンジニア採用の羅針盤」では、エンジニア採用や多国籍チームのマネージメントに関するコラムの他、IT関連のニュースが多数配信されています。同社の長年の知見に基づいた良質なコンテンツが充実しており、機会があれば、一度、サイトを訪問してみると良いと思います。