「一億総転職時代」はすぐそこまでやって来ている──「ゲキサポ!キャリア」事業責任者、岡千尋氏に聞く

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くのビジネスパーソンのキャリア形成に対する価値観が変化しつつある。実際、転職サイトビズリーチ」が実施したアンケート調査によれば、約6割のビジネスパーソンが新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、キャリア観が変化したと回答している。

また、そのうちの9割以上が「企業に依存せずに、自律的なキャリア形成に取り組む必要がある」と回答している。今回のような世界的な社会情勢の変化を受け、今後、日本でも働き方が大幅に変化していくことが予想される中、「いつでもどこでも活躍できる自分」を築き上げていくためにはどうすれば良いのだろうか?今回は、短期集中型のキャリア相談サービス「ゲキサポ!キャリア」の事業責任者を務める岡千尋氏(@bln49980)に話を聞いた。

ー 最近の若手社会人の方々のキャリア形成に関して、顕著に見られる傾向等はありますか?

岡:ここ数年、将来に対する漠然とした不安を抱えていらっしゃる方が急激に増えてきているという印象があります。実際、多くの方々が、「会社を辞めたいと思っているけれど、どのタイミングで辞めれば良いのかわからない」「今の仕事に対して不満があるけれど、自分に問題があるのか会社に問題があるのかわからなくて、時間だけが過ぎてしまう」といった悩みを抱えています。

会社を辞めるということに対して、必要以上に「罪悪感」を感じてしまっているケースも多く見られます。「一生懸命やってはいるんだけど、一生懸命取り組めている実感が持てない」という人も多いです。どうしても、一社しか経験していないと、自分が社会で本当に通用するのだろうかという不安が強まる傾向があります。また、転職活動を始めたいと思っているものの、やりたいことがなかなか見つからず、動き出そうにも動き出せないというケースも少なくありません。

ー やりたいことを見つけることに苦労している方が想像以上に多いということでしょうか?

岡:そう思います。私自身、「ゲキサポ!キャリア」のトレーナーとして、トレーニングプログラムを通じてやりたいことを見つけるためのお手伝いをさせて頂いていますが、その経験を踏まえても、自分一人の力だけでキャリア開拓していくことはかなり難しいと感じています。そして、この難しさが生まれている背景には、「選択肢の多さ」があると思っています。

ー 選択肢が多い人ほど、意思決定に苦労するケースが増えているということですか?

岡:おっしゃる通りです。我々が提供している「ゲキサポ!キャリア」は、いわゆるハイエンド層の方々にご利用頂くケースも多いのですが、彼らのような優秀層の場合、キャリア形成のパターンとして、大手企業への転職という選択肢もあり得るし、ベンチャーへの転職という選択肢もあり得るし、起業・独立という選択肢もあり得る。要するに、数多くのキャリア上の選択肢が目の前に存在しているわけです。

短期集中型のキャリア相談サービス「ゲキサポ!キャリア」。週に1回、60分のオンライン面談で、自己分析や今後どんなキャリアを歩むべきなのかをトレーナーがコーチング

しかし、その一方で、現在の世の中において一般的に語られている「キャリア論」はあまりにも様々な成功/失敗例で溢れていて、一体、どのようなキャリア選択が自分自身の将来にとって最適なのか迷ってしまうケースが増えているのです。自分自身が正しいと信じて頑張ってきたものが本当に正しいのかどうかわからなくなる。その結果、将来に対する漠然とした不安に襲われてしまうという「悪循環」に陥っている方が増えているように思います。

ー 頼りになる相談相手が身近にいないことも多いのでしょうか?

岡:適切な相談相手が見つからず、孤独感を感じて苦しんでいる方は非常に多いです。また、両親に相談したところで、親世代とのキャリア形成に対する考え・価値観があまりに違いすぎて、問題解決に結びつかないケースも少なくありません。実際、例えば私自身が早期退職を経験しているのですが、終身雇用が当たり前とされていた世代だった両親の立場からすれば、「なぜそんなすぐに会社を辞めてしまうのか、本当に大丈夫なのか」という反応になってしまいがちです。

ー 上司に相談したところで、「今の会社で通用しない奴はどこに行っても通用しない」等と言われてしまうことも多いのでしょうか?

岡:そうですね。繰り返しになりますが、世の中にはキャリア形成に関する様々なアドバイスが溢れているけれど、逆に、それによって、自分にとっての最適解がわからなくなってしまうケースが増えています。また、自分にとっての最適解を見つける上で必要となる自分の本音を吐き出すための場所も足りていないと感じています。

ー 転職が当たり前になると、より実践的なスキルの習得を目指すようなキャリアが主流になるのでしょうか?

岡:その流れはあると思っています。実際、私自身が就職活動を行っていた頃は、メーカーや商社といった国内大手企業が就職人気ランキングの上位を占めていました。

しかし、最近は、国内大手企業に総合職として入社するのではなく、より実践的なスキルや高い専門性を早い段階から身につけることができる業種/職種に人気が移り変わってきていると感じます。

ー 上記の流れを踏まえると、「ゲキサポ!キャリア」は今まさに求められているサービスだと思います。サービス利用者はどのような方が多いですか?

岡:ありがとうございます。自分自身のキャリアの正解がわからなくて、心の中にモヤモヤを抱えている若手社会人の方が割合としては多いです。例えば、「自分ならではのキャリア形成の仕方が分からない」「そもそも自分はどういう人間で、どういう人生を歩んできたのかを振り返って自己認識を深めたい」「その上で、個別具体的なキャリア形成のアドバイスや転職活動のサポートが欲しい」などのニーズが多いです。 また、転職したいとは思っているけれど、そもそもエージェントや媒体に登録することに対する不安があったり、うまく既存サービスを使いこなせない方にもご相談いただくケースは増えています。

ー 新型コロナウイルスの感染拡大を機に、社会がリモート前提に変わりつつあります。「ゲキサポ!キャリア」では、オンライン面談にも対応しているのでしょうか?

岡:面談については、すべてオンライン完結となっています。また、2020年3月からサービス名を「ゲキサポ!転職」から「ゲキサポ!キャリア」に変更致しました。サービス名から「転職」というキーワードを除外した背景としては、「ゲキサポ!転職」としてしまうと、どうしても転職すること自体がゴールになってしまいがちです。しかし、ユーザーさんの中には、色々とキャリアの棚卸しをしていくことで、「まだまだやるべきことはたくさんある」と考えるに至り、結果的に現職に残るという意思決定をされるケースも存在します。上記を踏まえ、転職自体がゴールということではなくて、キャリア全般をより良くしていくためのサービスというコンセプトを明確に打ち出すという意味も込めて、サービス名を「ゲキサポ!キャリア」に変更させて頂きました。

ー 有難う御座います。ちなみに、以前に岡さんのnoteを拝読したのですが、文章が読みやすくて驚きました。どのようにして「書く力」を鍛えられたのですか?

岡:ありがとうございます。周囲から期待される自分になろうとして、「優等生でいなければならない」「みんなから嫌われないように、人気者でいなければいけない」という気持ちが強く、内面的な葛藤から自分の心の中の本音の吐き出しどころをいつも探していました。「本当の自分はどこにあるのか」ということを常に考えていまして、自分の頭の中に浮かんだ考えや感情をノートに書き出す、日記を書くという習慣を小学生の頃からずっとやっていましたね。

もしかすると、その過程が「書く力」を高めるためのトレーニングになったのかもしれません。また、その頃の経験は、トレーナーとしてユーザーさんの感情と向き合う際に非常に役立っています。

ー 有難う御座います。ちなみに、noteの記事「石の上にも3年」に縛られすぎて、苦しくない?」の中でも言及されている「石の上にも3年」問題ですが、ここ最近、企業側の考え方に変化は見られますか?

岡:もちろん、在籍期間を見られるケースはまだまだ多いとは思いますが、その一方で、退職の理由が前向きなものであれば、それほど気にしないという企業も増えてきています。それよりも、すでに起こった物事に対して、どのようにして自分の中で前向きに解釈できているのかが問われていると思います。

ー 旧態依然とした価値観は簡単には変わらない面もあるとは思いますが、だとすれば、「一億総転職時代」という表現もまだまだ現実的ではないのでしょうか?

岡:いえ、そんなことはないと思いますよ。実際、私たちの世代であれば、多くの人が100歳まで働く可能性があるわけで、だとすれば、これから4~5回転職することは決して不自然なことではないと思います。しかし、それにもかかわらず、皆さんは「次の転職が最後の転職になる」と思い込みがちです。「これから自分は何度も転職することになる」という可能性を考慮した上で、「この転職を通じて自分は一体何が欲しいのか」に焦点を当てて、優先順位を明らかにすることが大切です。

ー 年収は下がるけれど、自分の市場価値を中長期的には高めるような転職もあり得るわけですよね。

岡:そうですね。大切なのは、目的意識を明確化することだと思います。これは、いわゆる自己投資の文脈でも当てはまると思っていまして、例えば、「プログラミング技術そのものに興味があって、プログラミングを習得したい」というように明確な動機があればまったく問題ないのですが、「なんとなく良さそうだから」「なんとなくカッコ良さそうだから」といった理由で、目的意識を持たずに通学したとしても、「色々と学んだけれど、結局、どうやってそれを使ってキャリアを切り拓いていけば良いかわからない」となってしまいがちです。

ー スキルを得る前に自分自身の人生の指針を考えるべきということでしょうか?

岡:おっしゃる通りです。現状、転職を考え始めた際には、転職サイトやエージェントに登録することが一般的だと思うのですが、それらの面接や面談ではこれまでの経歴・経緯と「あなたはこれからどうしていきたいですか?」ということを問われるわけです。

でも、多くの転職潜在層の方々からすれば、本当に今、転職という決断が正しいのか、自分がそもそも何に悩んでいるのか、これからどうしたいのか、どうしていけば良いのかがわかっていなくて困っているわけです。我々はその一人ひとりの課題と向き合い、寄り添える存在でありたいと思っています。

ー 職種としては、ビジネスパーソンが主なユーザー層なのでしょうか?

岡:もちろん、一般的な企業に勤めているビジネスパーソンの方々が割合としては多いのですが、例えば、看護師や自衛隊といった特殊な職業に就かれている方もいらっしゃいます。彼らの多くは、「周りに転職する人たちが少なく、他の選択肢やキャリア形成について相談できる相手がいない」「そもそも、転職活動をやったことがないから教えてほしい」などの悩みを抱えている場合が多いですね。

ー 地域軸で見ると、やはり都市圏の方々による利用が多いのでしょうか?

岡:意外に思われるかもしれませんが、オンライン完結のサービスであるため、利用者は都市圏に偏っておらず、地方在住の方々にご利用頂くケースも多いです。具体的には、地方の公務員、メーカー企業、また異動で地方配属になった大手企業の方などにもご利用いただいております。

また、本当に数多くの方々にご愛顧頂いているおかげで、月次利用者の方の数は初月比で30倍以上に拡大しています。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、利用者の方の数が下がることも想定していたのですが、逆に、利用者の方の数が大幅に増えたことに対して非常に驚いています。不安が増長されたり、在宅勤務により一人で考える時間が増えたことによって、キャリアに対して本気で考えようと向き合う人が増えたことが要因としてあるのかもしれません。

ー 素晴らしいですね。最後に、若手社会人の方々にメッセージ等があれば、宜しくお願い致します。

岡:不確実性の高い世界においては、「こうであれば絶対正解」ということも無いので、常に「自分はどうしたいか」と向き合う姿勢が大切だと思っています。世の中は常に変化するということを前提として理解した上で、自分らしいキャリアを切り拓いていって欲しいと思います。

執筆者:勝木健太
1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティング、有限責任監査法人トーマツを経て、フリーランスの経営コンサルタントとして独立。約1年間にわたり、大手消費財メーカー向けの新規事業企画/デジタルマーケティング関連のプロジェクトに参画した後、大手企業のデジタル変革に向けた事業戦略の策定・実行支援に取り組むべく、株式会社And Technologiesを創業。執筆協力として、『未来市場 2019-2028(日経BP社)』『ブロックチェーン・レボリューション(ダイヤモンド社)』などがある。