「進化する“ファイナンスMBA”で大人の学び直しを」一橋大学大学院 経営管理研究科 伊藤彰敏教授に聞く

「人生100年時代」の到来が叫ばれ、英会話教室プログラミング教室が大きな人気を博していることからもわかるように、社会人の学び直しの機運が高まりつつある。そんな中、ファイナンスに軸足を置き、経営・ファイナンスの両方に精通した人材の育成・輩出に取り組んでいるのが、一橋大学大学院 経営管理研究科 金融戦略・経営財務プログラムだ。今回は、本プログラムで学習する内容/得られるメリットについて、一橋大学大学院 経営管理研究科の伊藤彰敏教授に話を伺った(以下、敬称略)。

伊藤 彰敏(いとう あきとし) 

一橋大学大学院 経営管理研究科 教授

東京大学経済学部卒、慶応義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)でMBA取得、ウェスターン・オンタリオ大学Ph.D.(経営学博士)。国際大学国際経営学研究科助教授、レジャイナ大学(カナダ)助教授、筑波大学准教授を経て現職。2014年FMA Asian Conference共同実行委員長を務める。

撮影:多田圭佑

入学のハードルは必ずしも高くない

ー まず、プログラムの内容についてご質問させて頂く前に伺いたいのですが、一橋大学大学院が提供しているMBAプログラムということもあって、「入学の難易度が非常に高いのではないか」「入学出来たとしても授業についていけるのか」と不安に思う方も少なくないように思います。そのあたりについてはいかがでしょうか?

伊藤:我々が提供しているプログラムは金融・ファイナンス領域にフォーカスしていることもあって、場合によっては、「ハードルが高い」という印象を与えることがあるのかもしれません。しかし、我々としては、「銀行業務に携わったことがない」「証券業務に関する基礎知識がない」といった方々を対象としてプログラムを設計していますので、まったく不安に感じる必要はありません。実際、製造業や商社勤務の方々、さらには、最近では医師の方なども入学/卒業されています。数学や統計学のバックグラウンドに不安のある学生向けに、比較的短期間で知識を補うことができるように、「入門科目」もいくつか用意されています。

ー 入学に際して、必要となる要件等はあるのでしょうか?

伊藤:出願資格としては、「入学時点において、企業・官公庁等における原則2年以上の実務経験を有する者で、大学卒業または本研究科において、大学を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者」と定めています。大学卒でなくても、それに相当するような専門性をお持ちの場合、別途、審査させて頂く形を取っています。

出願時に提出する書類についてですが、一つは、「エッセイ」を求めています。「なぜここで勉強したいのか」「どのようなキャリアを目指しているのか」について記述して頂きます。もう一つは、「修士論文計画書」を提出して頂きます。「なぜそのテーマに関心があるのか」「そのテーマを深めるために自身でどのような努力を行ったのか」について記述して頂きます。我々としては、2年間、仕事と学業を両立できるだけの意欲を感じられるかどうかを重視して、内容を精査させて頂いております。

ー 出願時に提出した「修士論文計画書」に沿った形で研究を進めていくのでしょうか?

伊藤:学習を続けていく間に、個々人の関心テーマが変化する可能性も十分にありえますので、必ずしも「修士論文計画書」の通りに研究を進める必要はありません。我々としては、「限られた時間内に、自分自身の中にある知識を総動員した上で、どこまで具体的な研究テーマを打ち出すことができるか」という点を見ています。また、研究テーマとしては、実務に直結したテーマを求めています。実務的な問題に対して、実務者の観点からいかにして意味のある回答を得るかということが重要です。

また、内容の審査については、すべての提出書類を教授陣でチェックします。評価基準としては、いくつかの指標がありますが、最も重要なポイントは、「その研究テーマに具体性があるか否か」です。書類審査後、口述試験を実施し、最終的な合否を出します。口述試験では、本プログラムのカリキュラムとご自身のキャリア目標との適合性を確認することを目的として、「修士論文計画書」に記述された進学の動機と研究テーマについて具体的に伺います。

ー 有難う御座います。書類審査/口述試験を突破した場合、入学に際して、学費の支払いを行う必要があると思いますが、先日、NewsPicks内の動画コンテンツ「MBAは役に立つのか」で、卒業生の崔 真淑さんのお話で、「それほど学費が高くない」ことを知って驚きました。

伊藤:そうですね、崔さんもおっしゃっていたかもしれませんが、国立大学であるため、私立大学のMBAプログラム等と比較すると、学費は相対的に安くなっています。ちなみに、2020年4月入学の学費は、入学金が282,000円/授業料が年額535,800円で、2年間で修了する場合、合計金額は、1,353,600円となります。

さらに、我々が提供しているプログラムは、厚生労働省が実施する専門実践教育訓練給付金の指定講座であり、受給資格がある方で、事前に必要な手続きをすれば、2020年4月入学の場合、最大で938,620円が給付されます。実際、我々のプログラムにおいても、入学者の半分は給付金を利用して入学しています。

ー なるほど、給付金を活用すれば、たった41万円程度の出費で済むという事実は衝撃的ですね。続いて、入学後のお話に移りたいと思いますが、日々の講義においては、具体的にどのような内容を学習するのでしょうか?

伊藤:基本的には、ファイナンスやデータサイエンスをしっかりと勉強して頂きます。それに加えて、個々人の関心にあわせて、様々な専門科目が用意されています。授業内では、第一線で活躍する経営者・実務家の方々をゲストスピーカーとして招聘するクラスも数多く行われています。

出典:一橋大学大学院 経営管理研究科 金融戦略・経営財務プログラム パンフレット

また、授業の時間帯については、平日・月曜日〜金曜日の18時20分から2コマ設定されています。一部の科目や集中講義などは、土曜日に開講されることもあります。修業年数は2年ですが、仕事などの状況に合わせて、半年単位で最大で修了時期を2年間延長することが可能です。

伊藤:また、学内施設について軽くご紹介させて頂きますと、学術総合センター5階にある図書室は、1万冊を超える図書と270種の雑誌を備えています。さらに、データ室では、「QUICK Workstation」「Quick FactSet Workstation」「Bloomberg」「トムソンロイターDatastream」「Thomson One Investment Banking」「イボットソン・モーニングスター提供ファンド関連データ」「レコフ社 MARR(M&A関連DB)」等のデータベースが(使い放題で)閲覧可能となっています。

ー データベースの充実度に関しては、『証券会社を超える水準』と言っても言い過ぎではありませんね。

伊藤:少なくとも個人の方がこの水準でデータを取り揃えるのは難しいと思いますね。上記のデータを活用した上で、修士論文を仕上げて頂く形となります。

ー 素晴らしいですね。一橋ファイナンスMBAは卒業生ネットワークも非常に強固であるという話を聞いています。

伊藤:そうですね。あくまで一例ですが、金融機関に勤務している卒業生の方で、新たな金融商品を開発する際に、専門的な知見にアクセスする手段として、卒業生ネットワークが非常に役立ったことがありました。実際、我々のプログラムの卒業生は、専門書の執筆等も数多く行っており、卒業生ネットワークを辿ることで、金融・ファイナンス分野の専門家にリーチできるという点もメリットの一つとして捉えることができるかと思います。

また、卒業生ネットワークを広げる「ファイナンスクラブ」というイベントを年1〜2回開催しています。毎回、金融・ファイナンス分野をはじめとした各界で活躍する卒業生の実務家や研究者の方々が講演者として招かれ、最新のトピックについて講演するとともに、参加者が幅広く意見交換をして、新たなネットワークを広げる場となっています。最近の登壇者と講演テーマの例については、以下の通りです。

出典:ファイナンスクラブ

ー 最後に、社会人大学院等で学ぶ意欲のあるビジネスパーソンに対して、メッセージをお願い致します。

伊藤:社会人大学院で得られるものは、学問的な知識にとどまりません。前述した卒業生ネットワークも貴重な「財産」になりえますし、自身の力でキャリアを切り拓いていくための「覚悟」を決める場としても、ご活用頂くことができます。また、卒業生の渡邊 佑規さん(現グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクター)がファイナンスクラブでおっしゃっていたことでもあるのですが、「10年後、今の自分のままで本当に良いのか」ということを常に自問自答した上で、健全な危機感を持って、キャリア設計を行うことが重要であると考えています。我々としては、上記の考え方を踏まえ、自身に備わっている強みの棚卸しを行った上で、我々のプログラムを適切に活用して頂き、皆さんのキャリアを切り拓く一助となることができればと考えています。

最後に

一橋大学大学院 経営管理研究科 金融戦略・経営財務プログラムでは、金融・ファイナンスを軸として、経営全般に関する幅広い知見を持つ人材を今後も育成・輩出していくという。本プログラムでは、年2回の出願期間を設けており、現在は、冬期募集を実施中である。募集要項については、こちらからダウンロードすることができる。

執筆者:勝木健太

1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティング、有限責任監査法人トーマツを経て、フリーランスの経営コンサルタントとして独立。約1年間にわたり、大手消費財メーカー向けの新規事業/デジタルマーケティング関連のプロジェクトに参画した後、大手企業のデジタル変革に向けた事業戦略の策定・実行支援に取り組むべく、株式会社And Technologiesを創業。執筆協力として、『未来市場 2019-2028(日経BP社)』『ブロックチェーン・レボリューション(ダイヤモンド社)』などがある。