公開日

2022/06/08

最終更新日

大手企業からの転職を考える ── NTT西日本出身・片岡和也氏とトビラシステムズ代表・明田篤氏に聞く

終身雇用が一般的ではなくなりつつある昨今、大手企業から中小企業やスタートアップへの転職を希望する人が年々増えている。しかし、大手企業とスタートアップを比較した際、働き方や求められるスキルにギャップがあるため、躊躇してしまうことも少なくない。大手企業での勤続年数が長くなるほど、転職したくても不安を抱えて悩んでしまう傾向がある。大手企業からスタートアップへの転職には、どのようなメリットがあるのか。本記事では、NTT西日本で11年間勤務した後、スタートアップ数社を経てトビラシステムズに転職した片岡和也氏に話を聞いた。また、同社代表取締役社長の明田篤氏に中途社員を採用する経営者の視点を伺った(以下、敬称略)。

大企業からの転職を決めた理由

── NTT西日本に在籍していた頃は、どのような取り組みをされていましたか?

片岡:主な業務は新規事業の創出です。当時のNTT西日本は「自前主義からの脱却」を目指しており、様々な企業と協業して新しいサービスを作ろうという流れがありました。具体的に私が取り組んでいたのが、フレッツ光を活用した新規事業の創出です。その一つにトビラシステムズとのプロジェクトがありました。トビラシステムズが創業時から取り組んできた迷惑電話防止サービスをフレッツ光で提供できないかというご提案があったんですね。実現するにはたくさんの障壁があったのですが、明田社長と何度も試行錯誤を繰り返すことで、2014年にサービスの第一弾をリリースしました。これが最初のご縁でしたね。

明田:ご提案させていただいた初期の頃は、別の担当者の方とやり取りしていたんです。しかし、プロジェクトが停滞しているのを見た片岡さんが我々の提案に賛同して途中から加わってくれました。部署間の調整のために奔走してくれた姿が非常に印象的でした。

── 転職しようと思った動機を教えてください。

片岡:大企業にいると異動や役職の変化に伴い、やりたい仕事ができなくなることが誰でも多少はあると思います。私の場合、マネージャーに昇格することになったのを機に新規事業の創出に注力できなくなってしまったことがきっかけで、将来のキャリアを意識的に考えるようになりました。2015年は今と違って、大企業からスタートアップへの転職はそれほど一般的ではありませんでした。NTT西日本は離職率が低い会社で、会社の同期で辞めた人はおそらく1割程度。今でこそ、早々に見切りをつけて転職する若手社員もいますが、30代以降に辞める人は少ないのが現状です。それでも私が転職を決心したのは、ビジネススクールに通った影響が大きいと思います幅広いキャリアの選択肢を知ることができたのは、ビジネススクールに通って得た重要な収穫です。一般的に、大企業に所属していると社内でキャリアアップする以外の判断軸を持ちにくいと思います。ただ、私が在籍していた部署はスタートアップの経営者と関わる機会が多く、彼らが転職に迷っている私の背中を押してくれました。

── 在宅勤務が当たり前になった今、新しい職場に馴染むのに苦労する話を耳にします。

片岡:働き方に関しては特に違和感はありませんでした。フルフレックスやリモートワークを導入しているトビラシステムズの働き方は、スタートアップの働き方そのものです。転職後はスタートアップで働いているので、そのような働き方や環境には慣れていました。ただ、転職初期の人間関係構築をオンラインで行うのは難易度が高いと感じています。オフラインで顔を合わせた方が他の社員に私の役割や人柄を知ってもらいやすい面があります。なので、入社直後は意識的に出社の頻度を高くしていました。もちろんリモートワークをしている社員もいますので、臨機応変に対応することが大切だと思います。

明田:弊社は早くからリモートワークを導入しているので、働き方は新型コロナウイルスが流行する前とそれほど変わりません。働く場所は社員の判断に任せています。現在は個々の状況に合わせて、出社とリモートワークを上手く組み合わせて働く社員が多いです。私は人と会いたいタイプなので、出社していることが多いですね。

大企業からの転職に向いている人

── 大企業から転職して良かったことは何ですか?

片岡:大企業とスタートアップでは、求められるスキルが違います。それぞれに難しい面があります。大企業にはリソースはあるのですが、それを動かすためには様々な部署と調整を図り、稟議を通すという大変さがあります。一方、スタートアップにはリソースが少ないので、色々と調達しなければなりません。例えば、資金調達の手段の一つとしてVCから資金調達をするということは大企業ではなかなか経験できないことです。最初のスタートアップで初めて経験したのですが、会社にとってもVCから調達するのは初めてだったので、かなり苦労しました。ただ、ある程度自分の判断でリソースを動かすことができるのは、スタートアップの面白いところです。結果に対して責任が伴う緊張感がありますが、私はそこにやりがいを感じています。

── 大企業からスタートアップへの転職に向いている人と向いていない人がいるのでしょうか?

片岡:そう思います。大企業には、オペレーションを組み立てて回していくタイプの優秀な人材が数多く存在します。スタートアップで活躍するために必要な能力はそれとは少し異なり、新しい道を切り開いていく能力が求められます。よく後輩から転職の相談を受けるのですが、大企業を離れても活躍できそうな方であれば応援しますが、向いていないと思った方には残った方がいいと遠回しに伝えています。それに今は副業もできる時代です。転職せずとも自身のスキルを活かして稼ぐ道はあり、実際、私の後輩には副業で活躍している人が何人もいます。

── トビラシステムズは外部からの出資を受けずに成長を続けてきました。

明田:そうですね。VCから資金調達をすれば、潤沢な資金を使い急成長できるという利点がありますが、失敗が許されないというリスクが伴います。弊社は創業から18年間、外部からの資金調達をせずに黒字成長を続けてきました。しかし、資金調達しているスタートアップと比べると、現在の規模に成長するまで長い時間を要したという面もあります。

片岡:大量の資金と人材を投入することなく、主力商品である迷惑電話防止の事業を作ってこられたのは驚異的なことだとNTT西日本時代から感じていました。

明田:弊社はエンジニアを数多く抱える企業ですが、私自身がエンジニアということもあって、最近まで全ての製品のプロトタイプを私が開発していました。創業してすぐの時期に人件費を抑えることができたのは良かったと思います。

採用のミスマッチを防ぐために重要なこと

── 中途採用に期待すること、面接で意識していることは何ですか?

明田:基本的な考えとして、「社員が一生、生活に困らないようにしたい」と思って採用しています。そのために会社として何ができて当人にどのような努力が求められるのか。そういったことを意識しながら採用面接に臨んでいます。ミスマッチは当人と会社の双方にとってマイナスでしかありません。弊社の場合、私自身がエンジニアでもあるので、エンジニアのミスマッチは起こりにくい。技術の話をしたり過去のプロダクトを見れば、相手のスキルが分かりますから、そこは外さないですね。極論を言えば、採用は技術力か人間性、どちらかしかないと思っています。営業やマネージャーのような職種の場合、書類や面接だけで適性を見極めるのは難しい。だから、採用して働いてみないと適性は分からないのですが、結局のところ、合う合わないは当人の人間性によると思います。片岡さんとは取引先として一緒に仕事をした経緯があるので、ミスマッチはありませんでした。

── 現在、どのような職種を募集していますか?

明田:弊社はサービスを作るのは得意ですが、売るのは比較的苦手な会社でした。片岡さんに営業企画の責任者になっていただいたのは、売る力を強化したいという意図があってのことです。現在は片岡さんと共に営業企画を頑張ってくれる人材の採用に力を入れています。もちろん、弊社は技術力あってこその会社なので、従来通りエンジニア採用も積極的に行っています。

片岡:次世代の生活を支えるインフラとなるようなサービスを創出すること、そのために最強のチームを作ることが目標です。現在、toB事業の自社プロダクトを拡販する営業チャネル強化に取り組んでおり、我こそはと思う推進力のある方は是非応募していただきたいと考えています。

── 中途採用が活躍できるトビラシステムズならではの取り組みについて教えてください。

明田:一緒に働く社員には、長く働いていただいて会社と共に成長する実感と喜びを感じていただきたいと考えています。現在、そのための制度作りを進めています。その中の一つが、従業員の持株制度です。従業員が自社株を買うと、購入金額の10%を会社が上乗せする制度を実施しています。例えば1万円分の株を買えば、千円がプラスされて1万1千円分の株が買えるのです。中央銀行により大量の紙幣が刷られ続ける社会においては、お金の価値はどんどん下がると考えられます。それに銀行に預けても金利はほぼ無いに等しい。これからは株式を通じた資産形成を考えてみても良いのではないかと思います。長く働いてくれた社員が自社株の値上がりを見て喜んでくれる ── 私がトビラシステムズの代表をしている間に、そんな未来を実現したいと思っています。

文=茂田 龍揮