公開日

2022/06/06

最終更新日

これからの「複業」新時代を考えるシンポジウム(主催:一般社団法人スマートワーク推進機構)講演レポート

2020年1月20日、ANAインターコンチネンタルホテル東京にて、一般社団法人スマートワーク推進機構の主催により、「これからの「複業」新時代を考えるシンポジウム」と題するイベントが開催された。本稿では、イベント内で実施されたパネルディスカッションを中心に、その概要を講演レポートとしてお届けする(以下、敬称略)。

撮影:多田圭佑

パネラー

元榮 太一郎(もとえ たいちろう)
参議院議員/法律事務所オーセンス 代表弁護士/弁護士ドットコム株式会社 代表取締役会長/一般社団法人スマートワーク推進機構理事 

吉田 浩一郎(よしだ こういちろう)
株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO

経沢 香保子(つねざわ かほこ)
株式会社キッズライン 代表取締役社長

長谷川 秀樹(はせがわ ひでき)
ロケスタ株式会社 代表取締役社長

モデレーター

高橋 恭介(たかはし きょうすけ)
一般社団法人スマートワーク推進機構代表/株式会社あしたのチーム 代表取締役社長 

高橋:それでは、パネルディスカッションを開始させて頂きたいと思います。本日のパネラーの皆様ですが、ビジネスの世界の第一線でご活躍されている本当に素晴らしい企業経営者の方々にお集まり頂いております。早速ですが、パネルディスカッション「これからの「複業」新時代を考える」ということで、始めさせて頂ければと思います。是非、内容の濃いパネルディスカッションを紡ぎ出せればと思っております。宜しくお願い致します。それでは、登壇者の方々のご紹介をさせて頂きたいと思います。まず、基調講演を頂いた元榮 太一郎さんにパネラーの一人としてご参加頂いております。宜しくお願い致します。続きまして、株式会社クラウドワークス代表取締役社長 兼 CEOの吉田 浩一郎さんにお越し頂いております。宜しくお願い致します。株式会社キッズライン代表取締役社長 経沢 香保子さんで御座います。宜しくお願い致します。ロケスタ株式会社代表取締役社長 長谷川 秀樹さんで御座います。宜しくお願い致します。最後に、株式会社あしたのチーム代表取締役社長/一般社団法人スマートワーク推進機構代表理事の高橋 恭介で御座います。宜しくお願い致します。

これまでの「複業」経験について

では、自己紹介も兼ねて、これまでのご自身の「複業」経験について教えて頂ければと思います。元榮さんに関しては、先程の基調講演の内容と重複するということで、割愛させて頂きます。それでは、まずは、吉田さんからお願いできますでしょうか。

吉田:クラウドワークスの吉田と申します、宜しくお願い致します。弊社は、オンラインで時間や場所に縛られずに働くことができるプラットフォームを提供している会社でして、世界100カ国/合計300万人のユーザーの方々にご登録を頂いております。ユーザー様の年齢層ですが、18歳〜85歳ということで、非常に幅広くなっております。また、ご登録頂いている企業様の数としては、約40万社超となっており、最近では、トヨタ自動車や本田技研工業といった日本を代表する大手企業様にもご利用頂いております。

私自身の複業経験ということですが、現在、上場企業の経営者としての役割を担っている一方で、ロビイング活動の一環として、新経済連盟という業界団体の理事を務めております。もうひとつは、エンジェル投資家として、日本/米国/インドの3カ国で40〜50社くらいのスタートアップ企業に出資させて頂いております。ある意味では、「3足のわらじを履いている」ということになるのかもしれません。また、私の場合、クラウドワークスは2回目の起業に該当するのですが、クラウドワークス創業前は、弁護士ドットコムの社外取締役/法律事務所オーセンスの管理部長を業務委託で担当させて頂いておりました。その他、いくつかの企業の社外取締役を務めておりました。そういった意味では、「複業」歴は意外に長いのかなと思います。本日は宜しくお願い致します。

高橋:続きまして、経沢さん、自己紹介/ご自身の複業経験について、お話頂けますか。

経沢:株式会社キッズライン代表取締役の経沢と申します。宜しくお願い致します。私の場合、「人生ずっと複業」みたいな感じでやって来ているなと個人的には思っております。経歴としては、新卒でリクルートに入社し、楽天を経て、26歳の時にトレンダーズ株式会社を設立しました。同社が上場した後、もう一社起業しまして、現在は、スマホからベビーシッターを24時間予約できる「キッズライン」というサービスを提供させて頂いております。社長歴としては20年くらいになるのですが、「社長業って基本的にパラレル(複業)だな」と考えています。私の場合、1社目も2社目も自宅で小資本で起業したのですが、最初のうちは、社長業の傍ら、自分のやりたい事業を世の中に対して伝えていくために毎日ブログを書いていました。情報発信を行うことについては、かなり意識的に取り組んでいて、テレビでコメンテーターをやらせて頂いたり、書籍を執筆させて頂いたりすることで、自社の認知度が向上するとともに、新規顧客の獲得や人材採用にもつながったことが過去に何回もあります。これらの経験を踏まえ、私個人としては、経営者にとっては、「複業」は基本的にはポジティブに働く可能性が高いというスタンスです。もちろん、従業員の複業に関しても、基本的にはポジティブに捉えています。本日は、宜しくお願い致します。

高橋:それでは、最後に長谷川さん、宜しくお願い致します。

長谷川:本日は宜しくお願い致します。私自身、サラリーマン時代が長くて、アクセンチュア/東急ハンズで約10年間働いておりました。その後、メルカリで約1年間働いて、今はプロフェッショナルCIO/CDOとして、複数社と仕事をさせて頂いております。2019年11月にメルカリを退職した際に、厚生年金から国民年金に変更になったことで、独立したことをあらためて実感しましたが、おかげさまで、何社かの企業様にお声掛け頂いて、現在に至っております。サラリーマン時代、特に東急ハンズに勤務していた頃に痛感したのですが、日本経済の低迷の根本的な原因の一つは、日本の人材流動性の低さにあると考えておりまして、現在は、その課題の解決に向けて、いくつかの事業に取り組んでおります。宜しくお願い致します。

政府も副業/兼業を後押し

高橋:続いて、次の質問に移りたいと思います。元榮さん、確認させて頂きたいのですが、国の指針としては、副業/兼業に関しては、「反対」ではなくなっているのですよね?

元榮:そうですね。副業/兼業解禁ということで、政府としても、2年前くらいから「後押し」をしている状況です。

高橋:有難う御座います。ただ、運用に際しては、経営陣が強く賛成側に回るのか/緩やかに反対側に回るのかによって、「複業」が進んでいく会社もあれば、ほとんど進まないという会社も出てくるかと思います。当然ながら、「社員の20%以上が必ず副業しなければならない」というようなルールはありませんので、各企業の裁量に委ねられる側面があるという理解で宜しいでしょうか。

元榮:そうですね。おっしゃったように、「絶対に副業させなければならない」ということではないですし、会社としては、「本業に支障のない範囲で、社員の判断に任せる」ことになると思います。

副業/兼業解禁の度合い

高橋:有難う御座います。「副業が解禁されているかどうか」ではなく「副業解禁の度合い」について伺いたいと思います。吉田さん、クラウドワークスにおいてはいかがでしょうか?

吉田:弊社は、人々の働き方を変えることをビジョンとして掲げている企業ですので、副業に関しては、「全員OK」としております。実際、全社員の1/3くらいは副業しています。働き方については、フルフレックス/フルリモートでOKとしており、LGBTや海外出身者の採用についても、積極的に推進しています。私自身、先週の新入社員向けのレクチャーもすべて英語で行いましたが、そのくらい従業員の国籍の多様化が進んでいます。

多様な働き方を認めると、まず、離職率が下がります。実際、共働きの夫婦の中には、毎日、子供の送り迎えを分担してやっている方がいらっしゃると思いますが、弊社の場合は、フルリモートOKなので、送り迎えをした後に、出社せずに、自宅で仕事をすれば大丈夫です。そうすると、ママ友達の中でのパパの評判がとても上がるので、家族の結束力も高まります(会場笑)。

高橋:有難う御座います。副業/兼業はここ数年で大きな変化が巻き起こるくらいまで来ているのでしょうか?

吉田:そうですね。時系列で追うと、2017年末に政府が副業/兼業解禁のアナウンスを実施して、2018年の春頃から「本格的にやりますよ」という雰囲気が醸成され始めました。2018年9月には、テレビで副業特集が大々的に組まれまして、その影響で、クラウドワークスのアプリがApp Storeのランキングで3日間連続1位を獲得したこともありました。さらに、2019年においては、みずほ銀行さんによる副業解禁の話が非常に大きなインパクトをもたらしました。日本の名だたる大手企業も副業を解禁してきている状況であり、2020年はまさに「副業元年」という言い方もできるかと思います。

高橋:有難う御座います。続きまして、経沢さん、宜しくお願い致します。

経沢:副業を認める/認めないの議論ではなく、副業を推奨しても生き残れる会社にならないといけないと思っております。そのように考えるに至ったきっかけですが、ブロガーとして著名なはあちゅうさんという方がいらっしゃるのですが、彼女による影響が私の中で大きいです。どういうことかと言うと、私自身、トレンダーズ時代に、はあちゅうさんのような優秀な人材を採用したいと考えておりまして、でも、当時の彼女は電通に勤務していました。そんな彼女に対して、「電通で働きながらも、本当は自分自身の考えをもっともっと自由に発信したいと思っているのではないか」と感じたので、勇気を振り絞って、声をかけて、「うちの会社だったら、色々な発信を好きなようにして良いよ」という話をさせて頂いて、彼女が入社してくれた出来事がありました。それは、私の中では非常に大きな転機でした。

特に、最近では、若くて優秀な方々は「複業」という言葉に対して非常にポジティブな捉え方をするようになってきているなと感じます。それに、優秀な人材が一つの会社に縛られてしまうのも時代の大きな流れにある意味では逆行している気もします。もちろん、会社の状態が良くないと、どうしても「社員には自社のことだけを考えてほしい」と思ってしまいがちなのですが、それではお互いにバッドサイクルになってしまうので、様々な角度から考えて、自社にとって良い人材が入社してくれるような仕組みづくりに社長が率先して取り組んでいかないと、「言ってることとやってることが違う」となって、社員の心が離れていってしまう。私自身、それは特に心掛けていることです。

また、手前味噌ですが、弊社が提供している「キッズライン」というサービスは、保育士資格を持っていて活かしきれていない方や主婦として頑張ってこられた方にとっては、社会の役に立ちながら、収入を得ることもできるという点で、非常に優れた副業サービスだと自負しています。キッズラインにご登録頂いているベビーシッターさんは全国で約4000人いらっしゃるのですが、本業は別にあるけれども、副業で夕方/休日にベビーシッターをやったり、好きな時に好きな時間で好きな仕事ができるというのがキッズラインの「良さ」でして、副業でベビーシッターの仕事をしている人も多いです。もちろん、副業だからといって、決してクオリティが低い訳ではありません。このような形で、やりがいがあって、なおかつ本業に対してもポジティブな影響をもたらしてくれるような副業をどのようにして社会全体でクリエイトしていくかがこれからはより一層重要になるのではないかと考えています。

高橋:有難う御座います。ちなみに、私自身、小さい子供がおりまして、キッズラインのヘビーユーザーで御座います。それでは、長谷川さん宜しくお願い致します。

長谷川:私自身、会社員をしながら副業をやってきたので、複業については賛成の立場なのですが、前職のメルカリでは非常に強烈な体験をさせて頂きました。メルカリ入社前は、性悪説で組織運営を行うのが当たり前だと考えており、リモートワークについても、「本当に仕事してるの?」ということで、日報を出させたりという風に管理ばかりになってしまって、「そこまでしてリモートワークに取り組む必要ってあるの?」ということがありました。経営者として「副業OK」と宣言する上で、最も懸念することは、「本業がおろそかになるのでないか」という部分だと思います。メルカリの場合は、完全に個人の裁量に委ねられていて、それが仕組みとして非常に上手く機能していました。

例えば、メルカリでは、チームで週1回/30分間の「1on1」のミーティングを実施するのですが、それによって、チームの誰がどんな状態で仕事をしているのかが上司として正確に把握できますし、リモートOK/副業OKだとしても、本業がおろそかにならない仕組みが出来上がっていました。そのような仕組みがない状態で副業をOKにしてしまうと、経営側も一定のリスクはあると思うので、相互の信頼関係を形成した上で、副業を解禁していくのが良いのではないかと考えています。

高橋:有難う御座います。元榮さん、改めて、お三方のお話を聞いて思うことは何かありましたか?

元榮:しっかり考えていらっしゃるなと感じましたし、多くの経営者の方々にとって、お手本になる事例だなと思いました。まだまだ副業に対して「及び腰」な経営者も少なくないですが、副業/複業を推奨することが採用力の強化に繋がる/離職防止に繋がる等といった側面については、真剣に受け止めてもらいたいなと思いました。

高橋:有難う御座います。次の質問ですが、そうはいっても簡単にできるものではないということで、「どういうルールを設けているのか」「マネジメントする上でのポイントは何か」等を教えて頂ければ、すぐにでも社内で検討するポイントになるのかなと思います。こちらを長谷川さんからお聞きしたいと思います。

長谷川:先程、お話させて頂いた内容がベースになるのですが、メルカリにおいては、OKRの仕組みを採り入れており、副業は申請する必要はなく、四半期に一回の頻度で、本業の成績を見ています。副業をしていたとしても、「あいつは副業してるからなぁ」とネガティブな扱いを受けることはありません。特に、エンジニアの場合、一生懸命インプットをやらないと良いアウトプットが出ない場合が多い。副業に取り組むことは、インプットの機会を増やすことにつながるので、綺麗事ではなく、「副業が本業に返ってくる」という側面は想像以上にあるかと思います。あとは、バックオフィスの方々で言えば、例えば、人事部門の方々は他社の人事コンサルをやっていたり、自身の専門性を生かして複業をしている方が比較的多いのかなと思います。人事に限った話ではありませんが、「他社はこんな方法で採用に取り組んでいるのか」等と非常に勉強になる部分もあるので、本業に返ってくる可能性は十分にあると思います。では、「他社さんに転職してしまったらどうするんだ」と思われるかもしれませんが、それはもう仕方がないことだと思います。結局のところ、外の世界からシャットアウトしたところで、どっちみち離職してしまう場合が多いでしょうし、「俺達は志をもって一緒に仕事をしている」「だから、皆を信用して、多様な働き方を認めていくんだ」というメッセージを経営トップが伝えないといけない。「時代の流れに任せて副業解禁してみました!」では、上手くいかないと思います。

高橋:個人と会社の新しい信頼関係を考慮した上で、人事制度を設計していかなければならないということだと思いますが、信頼と性善説を前提としているのがメルカリさんの考え方であるという理解で宜しいでしょうか?

長谷川:そうですね。メルカリでは、そういった文化が成熟していると思います。

高橋:有難う御座います。特に、経営者の方には刺さる内容だったのではないかと思います。元榮さん、仕組み化やルールについて、今のお話を含めて、いかがでしょうか?

元榮:弁護士ドットコムも副業を認めています。仕組み化やルールについては、副業の必要性を明記した上で、申請すれば、上長判断で副業を許可することになっています。やはり、本業をしっかり全うできているのかをチェックする人事評価の仕組みが重要だと考えています。仮に、上場準備前の人事評価制度等が確立していない状態で「副業OK」にしていたら、もしかすると「カオス」になっていた可能性もあります。上場準備後は人事評価の仕組みが確立されて、社員が自由に複業ができる状態に辿り着いていると思います。「人事評価システムがどれだけ確立しているのか」を考えることが何よりも重要だと思います。評価制度とセットであれば、副業の解禁も怖くないはずです。

高橋:長谷川さん、大手企業では逆のケースで「副業する人は昇進できない」という話もあると聞くのですが、いかがでしょうか?

長谷川:大手企業の中には、申請制で「副業OK」としているものの、実際に申請をすると、「昇進しなくていいんだね」と受け取られてしまうケースが存在していて、結果、誰も手を挙げないと言う話を聞いたことがあります。副業/兼業を認める流れは加速しているものの、現実問題として、まだまだ「及び腰」になっている企業も少なくないというのが現状だと考えています。

高橋:それでは吉田さん、いかがでしょうか。

吉田:経営者のみなさんにとっては、ある意味では、非常に良いタイミングだと思っています。副業を認めるということは、「責任を問える」ということです。全員が同じ働き方をしていたら、多少仕事ができていなくても、プロセスを評価することができます。でも、副業をOKにすると、「今後はあなたの仕事をプロセスではなく成果で見ますよ」という実力主義に拍車がかかることになると思います。多様性を認めるということは、それぞれのプロフェッショナリズムを認めることであり、独立した個人としての扱いを受けることを意味します。そういった意味では、「約束(コミットメント)が増えた」ということに尽きるのではないかと思います。副業を許可すると同時に、期待している定量目標/定性目標をきちんと伝えると、より一層頑張ってくれることも多い。言い訳が効かずに、結果だけで評価することになりますので、経営者にとっては、副業を認めることは自社の経営に対してポジティブに働く可能性が高いのではないかと考えています。

高橋:そうなると、国全体の生産性を上げるというところもスコープに入ってくるのでしょうか?

吉田:そうですね。この点については、少し余談になりますが、そもそも正社員を中心とした雇用システムというのは、GHQによって1945年に作られたある意味では非常に古いシステムです。「古いシステムなんて使いたくない」と皆さんは常日頃からおっしゃっていますが、面白いことに、「GHQが1945年に作ったシステムを使いたくない」とは誰も言わないんですよね。当時は、ソ連に代表されるような極めて社会主義的なモデルを参考にして、「庶民は企業に所属し、企業は国に所属する」というピラミッド型のモデルをつくったんですよね。その時は、「個人は脆弱なものである」という社会上の前提があって、乱暴に言えば、「企業の中に入りなさい。企業の中にいれば、信用があります。企業の中から出たらダメですよ」ということで、1945年に作られたシステムが現在の正社員を中心とした雇用システムです。そして、このような視点で見ると、正社員システムに固執するというのは、ある意味、自分の周囲にある10〜20年前の使いにくいレガシーなシステムにしがみついている状況とそれほど変わらないんですよ。では、なぜ、正社員のシステムを使いにくいと言わないのかと言うと、それは物事の俯瞰の度合いによるのかなと思います。言うまでもなく、これからは個人の時代ですので、個人に権利を与えて、責任を問うというシンプルな構造が主流になるのかなと個人的には考えています。

高橋:有難う御座います。今年、経団連の中西会長が成果型賃金制度への移行を強烈に打ち出しておりますが、私の理解の確認も含めてなのですが、副業が成果型賃金制度への移行を促進する場面はあるでしょうし、成果型賃金制度を促進すると、副業はもっと意味のある形になるのかなとも思うのですが、これらに何らかの関係性は御座いますでしょうか?

長谷川:ある意味、表裏一体なものではあると思います。全員が同じことをして成果が上がるというのは拡大再生産の時代の産物です。今はデフレの時代ですし、人口減少の長期トレンドも明らかである以上、複雑な変化に対して、柔軟に変化する権利を与えてあげないと、業績も上がらないと思います。

高橋:有難う御座います。それでは経沢さんお願いします。

経沢:キッズラインは設立して6期目のベンチャー企業ですが、私が常に心がけていることは、「本当の意味で副業ができるくらいの質を目指す」ということです。副業というと、どうしても「お小遣い稼ぎ」みたいな話になりがちですが、そういう話になると、「もっと本業に集中してほしいな」と思ってしまう側面もゼロではありません。その一方で、例えば、マーケティングが得意/PRが得意/ライティングが得意/システム開発が得意で、友人と一緒に会社経営をやっていますというように、本業/副業が相まって良いサイクルになっていれば、自身のキャリアアップにつながる可能性も高い。そのような形で、社員自身のキャリアを考えてあげることが、経営者としての「覚悟」なのかなとも思っています。

あとは、「そもそも本業の給料が安いから副業をやらざるを得ない」という状態には絶対にさせたくないと個人的には思っています。そして、理想を言えば、会社にいることで、常に新しいチャレンジができて、社員一人ひとりにバイネームで仕事が集まってくる、そんな集団でありたいなと思っています。ちなみに、キッズラインは多くのベビーシッターさんにご登録頂いているのですが、他の会社との大きな違いは、サービス内に一人ひとりのページと写真があって、全部レビューがあることです。ある意味、ベビーシッターさんの「信用資産」がネット上に蓄積されていって、それに伴って、ベビーシッターさんの信用や収入が上がるという側面もあります。このような形で、個々の能力が社会でキチンと評価される仕組みをつくることを目指していきたいと考えています。

もちろん、私も社長という立場なので、「社員を自社に囲い込みたい」という下心もゼロではないのですが、そのような態度でいると、お互いの人生にとってマイナスだと思うので、「社員が副業を通じて持ち帰ってきてくれた知見/情報は会社のためにもなるし、その人のためにもなる」「会社という土壌で、みんなが成長できて、新しい取り組みを会社が積極的に行って、それがみんなのノウハウになっていく」ということを重視しています。

私自身、新卒でリクルートに入社しましたが、当時のリクルートはいわゆるベンチャー企業だったのですが、女性を積極的に採用したり、採用の際に地方に行って、シングルマザーのお家を訪ねたり、チャンスがなかなか巡ってこない人に対して、チャンスを提供していくような取り組みを積極的に行っていました。リクルートのカルチャーには、「リクルートの卒業生が社会に対して何らかの価値を提供できる人材になる」という考え方もあり、私自身、3人のこどもを出産しながら経営者としてここまでやってこれたのも、自分の生産性を高める/社員一人ひとりの生産性を高めることを常に追求してきたことが大きいと思っています。そういった意味で、副業を解禁するということは、会社の生産性を深く問われる、そんな側面もあるのかなと考えています。

高橋:有難う御座います。やはり、会社が社員にとってより良い土壌をつくることが必要だということでしょうか。

経沢:そうだと思います。私個人としては、他社様、例えばメルカリさんの組織作りの手法から多くを学ばせて頂いておりまして、「給料が高くて、副業もOKで、フルリモートで、羨ましいな」と思ってしまうのですが、その一方で、そのような仕組みを実現するためには、圧倒的なビジネスモデルを構築する必要がありますので、サービスの独自性を磨き上げるところは常に意識しています。

高橋:吉田さん、どうぞ。

吉田:経沢さんがおっしゃることも理解できますが、弊社に限って言えば、メルカリさんと競合したことはほとんどなくて、ほとんど「指名」でしか転職希望者は来ないですね。そもそも、弊社に入社してきてくれる人は、「人々の働き方を変えたい。だから、クラウドワークスしかない」ということで、ジョインしてきてくれる方がほとんどです。キッズラインさんも社会的に間違いなく素晴らしい取り組みをされているので、そこまで他社さんを意識する必要はないと思いますよ。

「複業」新時代、成功するポイント

高橋:有難う御座います。最後に締めになりますが、会場に来て下さっている皆さんに対して、「複業」新時代において、成功するポイントについて一言ずつ宜しくお願い致します。

経沢:私自身、ベンチャー企業経営者として、色々なことに悩みながらも、基本的な方針としては、「一人ひとりが輝くような会社にしたい」ということを考えてやってきました。良い会社の定義というのは様々ですが、私個人としては、特に、「女性が働きやすい会社」ということを一つの軸として掲げております。経営者の方々の中には、「女性社員のお子さんが病気で休んでしまったらどうしよう」「昇進・昇格させるのに子育てをどのように評価したら良いのかわからない」等の悩みを抱えてらっしゃる場合もあるかと思いますが、それはある意味では、副業をどのようにして評価するかという問題と似ている部分があると個人的には思っています。やはり、頑張った人が報われる制度は大事だと思います。

高橋:長谷川さん、宜しくお願い致します。

長谷川:どのようにして自社の人事制度に副業を組み込んで行くかについて考えている方も少なくないと思いますが、そのような方々に対して申し上げたいのは、それぞれの会社にとって適切な形があるということです。他社をそのまま真似するのであれば、やらない方が良い場合もあると思います。ふわっとした言葉で何となくそれっぽくしておいて、実態が伴っていないというケースが一番良くないと感じます。社員を信頼した上で、全員にとって、本当にしっくり来るような制度設計をされるのが良いのではないかと思います。一番良くないのは、会社の文化に合っていないのに、流行りに惑わされた結果、無理やりよくわからない制度をつくってしまうことです。

高橋:吉田さん、宜しくお願い致します。

吉田:短期的な視点だけでは十分ではないと思っていて、一つの手段として、歴史を勉強することが良いのかなと思っております。世界の歴史を俯瞰して見れば、大きな流れとして、帝国主義から資本主義にシフトしてきているのですが、帝国主義というのは、乱暴に言ってしまえば、他の国を侵略して、人を殺して、領土を手に入れるための活動で、ある意味、めちゃくちゃ「野蛮」なのですが、その野蛮な行為をほとんどの国がやっていた時代がありました。最近では、その活動が「野蛮だ」ということで、「国境を守って、GDPで争いましょう」という新しい指標が生まれました。我々は、帝国主義者のことを現在では当たり前のように「野蛮」だとみなしていますが、二酸化炭素を撒き散らし、地球環境を汚している私たち自身も、未来の地球人から見れば、「野蛮」だと言われてしまうのかもしれません。動物にも心があるのだとすれば、食事のために動物を殺す私たちは「野蛮」なのかもしれません。我々日本人も、戦国時代は日本人同士で殺し合いをしていましたが、「日本人同士で殺し合いをするのはまずい」となって、日本人が集まって、他国の人々と戦争という名の殺し合いをするようになった。そして、ようやく、「他国の人と殺し合いをするのはまずい」となって、資本主義社会の時代となりました。今となっては、「動物を殺したら悪い」「地球環境に悪い」という風に、どんどん対象が広がっています。上記を見てもわかる通り、現代の我々が絶対的に正義だと捉えている価値観というのは、ある意味では、非常に相対的で脆弱なものだと考えることもできます。75年前まで人類は戦争ばかりしていたのに、今や、戦争をすることは「野蛮だ」と言われるようになっています。あくまで一つの手段に過ぎませんが、歴史を学ぶと、今は歴史上の大きな転換点なのではないかという思考が生まれたりして、物事の見方が大きく変わる可能性があるのではないかと個人的には思います。

高橋:有難う御座います。それでは、元榮さん、宜しくお願い致します。

元榮:私自身、大変勉強になりました。「複業」新時代で成功するポイントということで言うと、生産年齢人口が激減して、人材の需給バランスが激変している事実を受け入れるということで、昭和/平成をなんとかやってきたという一面があると思うのですが、令和の時代が始まった今、経営者と社員の関係性をリセットして、ゼロベースで新たに考え直していく必要があるのではないかということを強く思います。そして、そういった意味でも、副業/兼業を行う社員さんがイキイキと活躍できたり、時短勤務で頑張ってくれている社員さんが肩身の狭い思いをしないといったことを含め、しっかりとパフォーマンスを出してくれている人を正当な形で評価することが何よりも重要です。また、その実現を目指す上で、ポイントとなるのが、先程も申し上げた通り、新しい時代の評価制度を確立し、それを磨き上げることだと思います。しっかりとパフォーマンスを発揮しているかどうかを正当に評価できる仕組みがあれば、包容力のある会社となって、能力ある人達を惹きつけ、会社の成長に繋がっていくと思っています。私個人としても、徹底的に現在の評価制度を見直して、包容力のある会社を目指していきたいと思っています。本日は、有難う御座いました。

執筆者:勝木健太

1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティング、有限責任監査法人トーマツを経て、フリーランスの経営コンサルタントとして独立。約1年間にわたり、大手消費財メーカー向けの新規事業企画/デジタルマーケティング関連のプロジェクトに参画した後、大手企業のデジタル変革に向けた事業戦略の策定・実行支援に取り組むべく、株式会社And Technologiesを創業。執筆協力として、『未来市場 2019-2028(日経BP社)』『ブロックチェーン・レボリューション(ダイヤモンド社)』などがある。