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2022/06/06

最終更新日

「立ち向かうべきは“壮大な社会課題”」開発責任者から見た、ベンチャーでデジタルトランスフォーメーションに取り組む魅力

2019年11月5日、株式会社SmartHR、株式会社メドレー、キャディ株式会社の共催により、「【開発責任者が語る】デジタルトランスフォーメーションに「今」取り組む魅力とは」と題するイベントが開催された。テクノロジーを活用することで社会課題を解決することに挑む上記3社によって開催された本イベント。今回は、パネルディスカッションを中心に、その概要をイベントレポートとしてお届けする。

写真撮影:多田圭佑

イントロダクション

まず、イベントの冒頭で、キャディ株式会社の安藤宏樹氏により、本イベントの全体像が説明された。

各社の開発責任者による会社説明

その後、各社の開発責任者による会社説明が実施された。最初に、株式会社SmartHRにてCTOを務める芹澤雅人氏(以下、芹澤氏)から、同社の事業内容に関する説明が行われた。「社会の非効率を、ハックする」ことをミッションとして掲げる同社は、メンドウな労務手続きや情報管理をラクラクに行えるクラウド人事・労務管理ソフト「SmartHR」を提供している。

芹澤氏は、SmartHRが提供する機能に加え、今後の事業展開の方向性や開発組織体制について説明した。同氏によれば、SmartHRは、サービス開始から4年目を迎えているが、2019年11月時点で、28,000社以上で利用されており、毎月、1,000社以上の企業に対して新規導入が行われているとのこと。サービス利用の継続率については、99.5%という数値を誇っており、これはB2B SaaSサービスとしてはかなり優秀な数値だという。

次に、キャディ株式会社にてCTOを務める小橋昭文氏(以下、小橋氏)から同社の事業内容に関する説明が行われた。「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」ことをミッションとして掲げる同社は、特注金属加工品の発注者と全国の加工工場をテクノロジーでマッチングするための受発注プラットフォーム「CADDi」を展開している。

キャディ株式会社の設立は2017年11月。Apple本社にてAirPodの開発等に携わっていた小橋氏とマッキンゼーにて大手製造業向けに調達業務の改善支援に取り組んでいた加藤勇志郎氏が共同創業する形で、同社は設立された。2019年11月現在において、同社には、約65名の社員が在籍しており、業績についても、急成長しているという。

最後に、株式会社メドレーにて執行役員 開発部長を務める田中清氏(以下、田中氏)から同社の事業内容に関する説明が行われた。「医療ヘルスケアの未来をつくる」ことをミッションとして掲げる同社は、インターネットテクノロジーを活用した自社事業を通じて、医療機関/患者/行政におけるデジタル活用の推進に取り組んでいる。

同社が展開する事業としては、医療介護従事者採用の効率化を目指すプラットフォーム「ジョブメドレー」や医療業務の効率化や安定化を実現するクラウド診療支援システム「CLINICS」等がある。今後は、患者側の課題を解決するアプリケーション開発の展開を進めることで、医療分野におけるデジタルトランスフォーメーションの推進を図っていくとのこと。

開発責任者によるパネルディスカッション

開発責任者による会社説明が行われた後、株式会社メドレーにて執行役員を務める加藤恭輔氏をモデレーターに迎え、パネルディスカッションが実施された。

※ 以下、敬称略

【登壇者プロフィール】

芹澤雅人(セリザワ マサト)

ナビゲーションサービスを運営する会社に新卒で入社。経路探索や交通費精算、動態管理といったサービスを支える大規模な WebAPI の設計と開発を担当。SmartHRにはサービスリリース直後から参加し、開発業務に加え、CTOとしてエンジニアチームのビルディングとマネジメントにも従事。

小橋 昭文(コバシ アキフミ)

1992年生まれ。スタンフォード大学・大学院で電子工学を専攻。在学中から航空機や軍事機器の開発製造会社ロッキード・マーティン・米国本社で勤務。ソフトウェアエンジニアとして大量の衛星データの解析に従事。米クアルコムにて半導体セキュリティ強化に従事した後、Apple米国本社で電池の持続性改善や、『AirPods』のセンサー部分の開発をリード。2017年11月にキャディの創業に参画し、現職に至る

田中 清(タナカ キヨシ)

2000年独立系SIerにてアプリケーションエンジニアとして勤務した後、コンサルティングファームにて様々な基幹システムの企画・開発に従事。その後、株式会社サイバーエージェントに入社。サーバーサイドエンジニアとしてソーシャルゲーム、動画サービスの立ち上げ、開発を担当する。2016年より株式会社メドレーに参加。2017年より開発部部長として、オンライン診療アプリ「CLINICS」やクラウド型電子カルテ「CLINICSカルテ」などの開発を牽引。

加藤恭輔(カトウ キョウスケ)

2006年一橋大学商学部卒業。優成監査法人に入所し、公認会計士として監査業務に従事する傍ら新卒採用の責任者を兼任。クックパッド株式会社に経営企画担当として入社後、IR、事業推進、経営会議運営などを経て会員事業部長としてマーケティング、ユーザーサポート、サービス開発、新規事業の責任者を歴任。2014年に執行役員に就任。その後広告開発の責任者、アライアンス推進、採用、グループ会社支援等を担当。2016年より株式会社メドレーに参加。

加藤:皆さん、こんばんは。株式会社メドレーの加藤と申します。本日は、産業とテクノロジーを掛け合わせた領域で事業を展開している企業の開発責任者によるミートアップということで、パネルディスカッションを開始させて頂ければと思います。まず、簡単に歴史を振り返ります。時系列軸で大まかに分類すれば、2000年代にGoogleやYahoo!が一気にメジャーになり、2010年代にSNSやゲーム産業が台頭し、2010年代の後半にかけては、C2Cやシェアリング関連のサービスが急速に拡大していきました。

その流れの中で、今後は、巨大産業/規制緩和/テクノロジーが掛け合わさった領域において、様々な課題解決ができるような状況になるのではないかと考えておりまして、2020年代におけるイノベーションの「本丸」の一つとなる可能性があると考えています。言い換えれば、2020年以降は、インターネットテクノロジーの注入が遅れていると言われている巨大産業をテクノロジーで変革することがますます求められると考えておりまして、本日は、そのようなお話をさせて頂ければと考えています。

立ち向かうべきは、“壮大な社会課題”

加藤:それでは皆さん宜しくお願い致します。本日は、質問のテーマをいくつか事前に用意させて頂いているのですが、その前に、「sli.do」で皆さんから頂いている質問を見ていきたいと思います。まず、いきなり本題とは外れますが、「SmartHRさんの競合はどこですか?」という質問が来ていますね。

芹澤:「競合」という言葉の定義次第で変わってくるとは思いますが、大きく分けて、二つの軸があると思っています。一つは、会社の規模で言えば、数千名〜数万名の企業、もう一つは、いわゆるSMB(中小企業・中堅企業)と呼ばれるような数百名以下の企業です。前者については、昔からパッケージ製品を提供しているような企業をイメージして頂ければと思います。

加藤:ちなみに、採用面では、どの企業と競合しますか?

芹澤:採用において、「ここが競合」という企業はあまり思い浮かばないですね。バックオフィス系のSaaSサービスを提供する会社の特徴なのかもしれませんが、「この企業とバッティングする」というケースはそれほど多くないように思います。

加藤:なるほど。では、キャディさんにも同様の質問をぶつけてみたいと思います。

小橋:そうですね。弊社の場合ですと、事業上の競合としては、町工場さんを想定しています。結局、案件を獲得する際に、どうしても町工場さんと比べられますし、サービスの品質も比較対象となりますので、良くも悪くも、それが「ベースライン」となっています。

加藤:採用上の競合はありますか?

小橋:採用はですね、なかなか大変ですね。

加藤:なかなか「手の内」を明かさないですね(会場笑)。ちなみに、弊社はSmartHRさんと採用面で良く競合します。

芹澤:同じビル内で「取り合い」ですね。

加藤:そうですね。最近であれば、今日の会場でもある六本木グランドタワーの中にある会社同士で「取り合い」になるケースは増えてきていますね。

加藤:メドレーはどうでしょう?

田中:そうですね。「人材系のサービスであればここが競合」「オンライン診療であればここが競合」「電子カルテであればここが競合」というように、競合のサービスは事業別では存在しますが、全体として、「ピンポイントでここが競合」という会社はあまりないですね。

加藤:これまでの3社の回答を聞いていてもわかると思うのですが、歯切れよく「ここが競合です」という企業はあまり無いんですよね。それはなぜかというと、我々が対峙しなければならないのは、個別の企業ではなく、壮大な社会課題なんですよね。壮大な社会課題に対して、どのようにしてアプローチしていくかが重要なのであって、それらに対してテクノロジーを活用して新しい解決策を模索しながら立ち向かっている企業というのは、ある意味では、「同志」のような存在です。「マーケットのパイを奪い合う」のではなく、いかにして既存の仕組みを変革できるかという点に3社ともフォーカスしていると考えています。

さて、もう一つ、「sli.do」から質問をピックアップしたいと思います。「小橋さんはなぜAppleを辞めたのですか?」という質問です。なかなか本題に入らずに申し訳ないですが(会場笑)。

小橋:そうですね。まず前提として、私自身にとっては、「仕事を通じて、世界をどれだけ良くすることができるか」ということが重要であり、その観点から、「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というビジョンを掲げ、レガシーな産業を変革することに取り組んでいます。さらに、弊社の事業に関しては、レガシーな産業を「リプレイス」するのではなく、「より全員を強くしていく」という志向性が強いです。Appleを辞めた理由ですが、皆さんもご存知の通り、同社はマーケットシェアのかなりの部分を既に取っている状況でして、私自身としては、「今後あるべき姿」と「現状」の差分の大きさを重視する形で、共同創業者の加藤と共に、キャディを立ち上げることを決心しました。

加藤:有難う御座います。ちなみに、田中さんはなぜサイバーエージェントを辞めたんですか?

田中:前職のサイバーエージェントでは、 Abema TVの立ち上げ等に携わっておりました。そのリリースが終わって、一区切りしたタイミングでメドレーに入社しました。メドレーを選んだ理由としては、元々、知り合いが在籍していたこともありますが、メドレーの組織体制に魅力を感じていた点が大きいです。どういうことかと言うと、B2Bサービスというのは、「良いサービスを作ったら、それでOK」という風にはなりません。特に、医療領域においては、業界のプロフェッショナルの知見が必要となる局面は非常に多い。その点、メドレーに関しては、創業当初からそのあたりを意識して、強固な組織体制を構築していた点に魅力を感じ、ジョインすることを決意しました。サイバーエージェントに入社する前は、SIerで業務系システムの開発に取り組んでおりまして、ウェブに加えて、SIer時代に培った経験を生かしたかったという側面もあります。

加藤:有難う御座います。芹澤さんは初期の頃からSmartHRにいらっしゃったのですよね?

芹澤:そうですね。前職はナビタイムジャパンという会社に所属しておりまして、経路探索エンジンを活用したサービスの開発に取り組んでいたのですが、私自身も、先程の小橋さんのお話とも重なりますが、「自分自身が技術者としてどれくらいのインパクトを世の中に対して与えることができるか」というのを試したく、弊社にジョインすることを決意しました。

加藤:SmartHRの経営陣の方々とは知り合いだったんですか?

芹澤:いえ、弊社のメンバーが3人くらいの時に、Tech Crunchのイベントで知り合いまして、それがきっかけですね。

加藤:有難うございます。まさに「三者三様」という形ですね、では、そもそものトークテーマにようやく移っていこうと思います。今回、5つのテーマを用意しています。産業構造の変化に関しては、先程、私の方から大枠をお話させて頂きましたので、皆さんに対しては、より具体的な内容を産業別に伺えればと考えています。では、まずはメドレーからいきますか。

田中:そうですね。医療業界に関して言えば、「3省3ガイドライン」という、各省庁から通達される遵守すべきガイドラインが定められていて、その範囲が多岐にわたることが大きな特徴として挙げられます。診察歴などの大切な個人情報を扱うため、セキュリティについても、非常に高い水準が求められます。その一方で、デジタル化を受け入れる方向に制度自体が変わりつつあります。例えば、病院のネットワークの内部と外部を接続する場合、これまではVPN接続が義務付けられていたのですが、3年くらい前に、クライアント証明書を利用したSSL/TLSクライアント認証を実施する形で、クラウドサービスが利用できるようになりました。また、医療機関のバックエンドに関しては、見えづらい部分が多いのですが、わかりやすいところで言えば、AIを活用した問診など、新しい技術も徐々に活用され始めてきているなという印象があります。

加藤:有難うございます。キャディさんはどうですか?

小橋:レガシー産業の変革という文脈においては、業界を問わず、「紙」の話は避けて通ることができないと考えています。もちろん、「紙」であることが業務上のメリットとなるケースも少なからずあるとは思いますが、同時に、「紙」であるがゆえに、業務の不確実性が高まってしまうケースもあるように思います。特に、製造業においては、文字通り、「正しく製造されている」ことが重要であり、仮に、「機械学習を活用して、99.9%の精度で判別できます」という話があったとしても、「人が見たら100%の精度で出来ますよね」となってしまうわけです。そのような「ベースライン」がある中で、人間が得意な領域と不得意な領域を正確に把握した上で、しかるべき領域において、自動化/デジタル化を積極的に推進していくことが重要であると考えています。

ちなみに、「キャディさんは一次請けをしているのですか?」という質問を「sli.do」で頂いていますが、弊社では、「一次請け」というよりかは、「産業構造における複数の階層構造を無くして、フラットにすること」に取り組んでいます。その中の取り組みの一つとして、製造業の専門知識を社内で持つことによって、「誰が何をできるのかを自動的に判定できる」仕組みを構築しています。

加藤:有難う御座います。SmartHRさんはいかがですか?

芹澤:業界の変革については、大きく分けて、2つあると思っています。一つ目は、冒頭でもご紹介させて頂いた「e-Gov」の話です。2015年にAPIが解放されまして、政府としても、「出来るだけ電子申請を活用する」という風にスタンスが変わってきたように思います。電子申請自体は元々存在していたのですが、APIが一般に公開されておらず、限られた企業しか使用することができなかったのです。さらに、来年、法改正の施行が予定されていまして、それがある意味では「後押し」になっている面はあります。

もう一つは、「働き方改革」の波があります。「労務管理にしっかり取り組んでいきましょう」「非効率な業務を改善していきましょう」という流れが、国全体としてあると思うのですが、労務担当者が取り組んでいるようなペーパーワークについても、弊社のようなサービス等を利用して、変革していきましょうという流れがあることを感じています。

加藤:有難う御座います。続いてですが、「業界のITリテラシーは自然と改善されてきていますか?」という質問が来ていますね。

小橋:良いところを突いてきますね。何をもって「ITリテラシー」とするか次第なところもあると思います。スマホを使いこなすことも、ある意味では、「ITリテラシー」の一つであると捉えることもできるかもしれません。

加藤:そうですよね。それに「高齢者の方々は、ITを使わない」と思い込んでいますが、実はそうでもない気がします。先月、上海に行ったんですが、老若男女問わず、AlipayやWeChat Payを使っているんですよね。「これが普通です」と言い切れれば、浸透していく。そんな側面もあるのではないかと個人的には感じています。

芹澤:スマホの登場は大きいと思います。また、ここ数年で言えば、SaaSに対する理解が深まってきています。AWSが一般に普及したこともありますが、クラウド上にデータを集積させることに対する「抵抗感」が薄れてきていることを感じます。昔は、「オンプレにしてくれ」とよく言われたものです。

加えて、「ITリテラシー」をどのように定義するのか次第ではあるのですが、最近驚いたのが、若い人の場合、何かをメッセージングする際、チャットを使うことが当たり前になっていて、「メールの使い方がわからない」ケースがあるようです。これは個人的には非常に大きな衝撃でしたね。

田中:確かに、数年前、色々な事業者さんに対して、「電子カルテをクラウドでやろうとしているんです」という話をすると、「クラウドで大丈夫なんですか?」という風に言われたことはあります。そのあたりの感覚については、かなり変わってきたという印象がありますね。

C向けサービスとの違い

加藤:有難う御座います。次ですが、「C向けのサービスとの違い」について語って頂ければと思います。例えば、小橋さんであれば、「AirPods」、田中さんであれば、「Abema TV」、芹澤さんであれば、「NAVITIME」という風に、皆さん、過去に、C向けサービスの開発に取り組まれた経験があると思うのですが、両者における特徴的な違いというのはあるものでしょうか?

芹澤:結構ありますね。弊社のサービスの場合、最も特徴的なことは、「エンジニア自身はユーザーではない」ということです。どういうことかと言うと、開発に取り組むエンジニア自身は、労務管理をやったことがないので、いわゆる業務上の「勘所」についてはわかりませんし、現場における課題感もわからない。その意味では、先程、「sli.do」の質問の中で、「エンジニアは仕様策定をしますか?」という質問があったのですが、答えを言うと、「仕様策定はできない」です。「エンジニアが捻り出した仕様が現場で通用しない」ということが数多く存在します。その意味で、仕様を策定する上で頼りにすべきは、ドメインエキスパートとユーザーヒアリングです。そのあたりの役割については、主に PM が担っていて、エンジニアは PM が作った仕様のブラッシュアップという形で関わっています。

小橋:まさに私たちも同じような状況でして、PMをかなり早い段階で投入する必要がありました。イメージとしては、「エンジニア5人に対してPM1人」というチーム構成です。モノを作るエンジニアに加え、顧客からの要望をヒアリングした上で、要件を適切に落とし込むことができるPMの役割は非常に重要です。

加藤:メドレーの場合、エンジニアがガイドラインを読み込んでいましたよね?

田中:そうですね。かなり大変で、泣きそうになりましたけど(会場笑)。医療業界の大きな流れについては、エンジニアでも把握できる部分があるにはあるのですが、実際に診察を行う際の「勘所」については、なかなか理解しきれない部分があります。弊社においては、医師とエンジニアで議論しつつ、仕様を決めていますね。

加藤:今の質問の延長線上ですが、「開発チームの作り方」で意識していることはありますか?

芹澤:先程申し上げたように、仕様策定に関しては、「実質的にほぼできない」ので、「仕様を作りたい」という願望があるエンジニアの方にとっては、期待にお応えできない場合があります。重要なことは、「エンジニアとして、どこに楽しみを見出すか」だと思っています。弊社の場合、仕様は先ほど述べたようなプロセスで決まりますし、バックオフィス系のサービスなので、高トラフィックをさばくようなこともなく、ある意味では「地味」な開発と言えます。さらに、現時点では技術トレンドを追うような「キラキラ」とした開発はできていなく、基本的には「枯れた」技術を応用した開発がメインとなっています。

じゃあ、何が楽しいのかというと、やっぱり「価値提供」なんですよね。現実問題として、労務の現場で発生している非効率な問題を自分たちの力でテクノロジーを提供することによって解決することができる。そのことによって、現場がハッピーになり、会社が大きくなり、売上が伸びる。そういった成長のプロセスに対して、「楽しみ」を見出せるようなエンジニアが弊社のカルチャーにフィットするかと思います。チームづくりに関しても、選考の段階からそのような志向性を強調した上で、弊社が重視する価値観に共感できるような方を採用することを心掛けています。また、入社後の目標設定についても、そういった面に主眼を置いています。具体的には、弊社では、OKRを採用していますが、「この技術を導入する」ではなく、「このような企業でも使ってもらえるような機能を開発する」といった風に、ユーザー視点を踏まえて、目標を設計することを重視しています。

小橋:今、芹澤さんがおっしゃったことは非常に重要だと思います。関連してお話させて頂くと、弊社においては、ドメイン駆動開発(DDD)に取り組んでいますが、ドメインエキスパートの知識を開発現場に対して汎用的に落とし込む仕組みづくりにフォーカスしています。初期の頃は、3ヶ月くらいコードを書かずに、その仕組みづくりに注力していた時期があります。弊社が取り組んでいる分野においては、紙という「自由入力欄」をいかに整理するかが肝心です。技術者として、意図的に「自由入力欄」を設けるのはOKですが、なるべく「型」に合わせるような設計を弊社では心掛けています。

田中:弊社においても、業務知識の獲得については重視しています。加えて、「オンボーディング」についても注力しています。専門性が高い事業領域であることもあって、どれだけ優秀なエンジニアであっても、バリューを出すまでに3ヶ月の期間を要する場合もあります。

DXを推進する上での「面白み」

加藤:有難う御座います。続いて、デジタルトランスフォメーションを推進する上での「面白味」に関してお話を伺いたいと思います。

小橋:「そもそも何のためにやっているのか」ということを意識しつつ、日々の業務に取り組むことが重要であると考えています。C向けサービスであれば、すぐに価値が見えたりすることもあるとは思うのですが、B向けサービスの場合、事業モデルが複雑なケースもありますし、業界理解の難易度も格段に上がります。そのため、「何のためにやっているのか」「世の中にどういうインパクトを与えているのか」を常に意識することを心掛けています。

田中:確かに、B向けサービスは、その性質上、「ユーザーの反応が伝わりにくい」面があります。C向けサービスであれば、ユーザーの反応がネット上で伝わってくる場合も多いのですが、 B向けサービスでは、そうはいきません。いくら数値で分析したとしても、「医療機関側にとってどれだけプラスになっているのか」「患者さんの満足度向上に本当につながっているのか」がわかりにくい面はあります。その課題を解決するためには、やはりユーザーヒアリングを継続的に行うことが重要です。

小橋:お客さんの「喜びの声」を開発現場に落とすような取り組みはされていますか?

田中:そうですね。ユーザーアンケートを活用して、お客様から頂いたフィードバックをもとに、社内で改善に向けた議論を行っています。

芹澤:弊社の場合、チャットでのサポートを提供していまして、日々、お客さんからチャット経由で問い合わせを頂きます。その中で、ポジティブフィードバック/ネガティブフィードバックの両方を頂きまして、それらをピックアップして、エンジニアに共有することに取り組んでいます。あとは、DXの文脈から外れるかもしれませんが、大手企業に対する導入が決まると、社会への影響度や浸透度の高まりを実感することができて、テンションが上がりますね。

加藤:たしかに、C向けサービスとB向けサービスでは、フィードバックの性質が違いますよね。例えば、私の前職のクックパッドの場合であれば、「クックパッドのおかげで、旦那さんに喜んでもらうことができて、家庭が明るくなった」というフィードバックを頂くことがありました。一方、メドレーでは、例えば、とある産婦人科のクリニックさんから、「ジョブメドレーのおかげで、良い人を採用できるようになって、24時間の受け入れ体制を実現することができた。その結果、町の医療により貢献することができた」というフィードバックを頂くことがあります。私自身、弊社のサービスの「町自体への貢献」を感じることができて、非常に嬉しくなったことを覚えていますが、これはB向けサービスに特有の「面白さ」の一つなのかなと思います。もちろん、両方に「面白味」があると思いますし、両方を経験できると良いですね。

加藤:最後の質問に移る前に、「sli.do」から一つ質問を取り上げたいと思います。「急拡大を続けていると思うのですが、開発チームのメンバーを採用する際に心掛けていることはなんですか?」という質問ですね。

芹澤:先程述べたように、大前提として、弊社が提供できない部分に対して、「理解」を示してくれるか否かについては重視しています。加えて、おっしゃるように、弊社は業績としては「急拡大」しているのですが、同時に、「企業文化を守りたい」という考えを強く持っています。やはり、「長く働いて欲しいな」と考えているんですよね。例えば、「上場しておしまい」ではなくて、できれば、「5〜10年のスパンで長く働いてほしいな」と考えています。一方で、求めている技術力については、そこまでハードルは高くないと考えています。時折、「少数精鋭ですよね」と言われることがあるのですが、実際にはそんなことはなくて、割合としては少ないですが、プログラミングスクールを卒業したばかりの人間も在籍していますし、十分な戦力になっています。弊社の場合は、どちらかというと、事業や会社に対する共感性を重視しています。

小橋:そうですね。弊社においても、企業文化に対する共感については非常に重視しています。加えて、これは共同創業者の加藤と良く話していることなのですが、「人を育てられるような体制をつくっていきたい」と考えています。弊社のミッションとして、「モノづくり産業のポテンシャルを解放しよう」ということを掲げているのですが、同時に、経営陣の中では、「人のポテンシャルを解放しよう」という話をしています。やりたいこと/備えている強みをうまくバランスさせるような仕組みを提供した上で、全員がハッピーになれるようなチームを作ることを目指しています。

田中:弊社においても、「カルチャーマッチ」については非常に重視しています。言うまでもなく、技術力も非常に重要な要素の一つではあるのですが、「この技術をやりたいから」という志向性があまりに強すぎると、「少し合わないな」というケースも出てくるかもしれません。また、医療業界において、課題を解決していく上では、どうしても長い時間がかかってしまうケースがあります。その意味で、弊社において、エンジニアとしての市場価値を高める場合は、長期的な目線で自身のキャリア形成を考えて頂きたいなと考えています。

B向けサービスの醍醐味

加藤:最後の質問ですが、今現在取り組まれている仕事の「やりがい」について、あらためて教えて頂ければと思います。

芹澤:そうですね。やはり社会に対する「貢献度」を肌で感じることができる点が第一に挙げられるかと思います。私が入社した頃は、100名くらいの規模の会社に導入できれば、「凄いところに導入してもらったね」と盛り上がっていました。しかし、今であれば、数万名規模の企業に対して、SmartHRが導入されることも増えてきています。その意味では、社会に対する影響度/貢献度が高まってきているなという実感はありますね。また、私自身、初期の頃に入社して、現在はCTOという役職を務めさせて頂いているのですが、組織が大きくなっていくことも私にとっては大きな「やりがい」を感じるポイントですね。

小橋:私にとっては、なんと言っても、お客様に対するインパクトが見えることが一番の「喜び」であり、「やりがい」ですね。また、チームが成長し、その結果、より多くの価値をお客様に対して提供することができた時も、大きな満足感や達成感を感じます。

田中:あくまで一例ですが、以前、福島県の南相馬市立小高病院に対して、タブレット端末を活用した「オンライン診療」を導入したケースがありました(参考:南相馬市、在宅医療の体制強化に向け「オンライン診療」を開始 ~メドレーとKDDI、安定運用を支えるシステム・タブレット端末を提供~)。その時は、高齢者の方々を中心として、多くの方々の役に立つことができたなと実感することができましたし、「やっていて良かったな」と心の底から感じることができました。

加藤:そうですね、特に、B向けサービスの場合ですが、わかりやすいフィードバックをすぐに頂けるとは限りません。その意味で、何かの取り組みを開始してから、ポジティブなフィードバックを頂くまでに、ある程度の時間を要する場合があります。これはB向けサービスの特徴の一つであると言えるのかもしれません。でも、ポジティブなフィードバックを頂くことができれば、どんどん「のめり込む」ことができますよね。これが、SaaSを含めたB向けサービスの「面白さ」であり「醍醐味」なのかもしれません。

執筆者:勝木健太

1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティング、有限責任監査法人トーマツを経て、フリーランスの経営コンサルタントとして独立。約1年間にわたり、大手消費財メーカー向けの新規事業/デジタルマーケティング関連のプロジェクトに参画した後、大手企業のデジタル変革に向けた事業戦略の策定・実行支援に取り組むべく、株式会社And Technologiesを創業。執筆協力として、『未来市場 2019-2028(日経BP社)』『ブロックチェーン・レボリューション(ダイヤモンド社)』などがある。