公開日

2022/06/08

最終更新日

琉球アスティーダ、FiNANCiE、イークラウド共催|スポーツクラブ×クラウドファンディング最前線【イベントレポート】

近年、国内外でサッカークラブによる新たな資金調達の事例が生まれている。昨年、海外ではFCバルセロナの公式ファントークンが発売から2時間足らずで130万ドル(約1億4000万円)を売り上げた。また、スコットランドのレンジャーズは675万ユーロ(約10億円)をターゲットとした株式投資型クラウドファンディングの実施を発表。国内においても、湘南ベルマーレなどを中心に数多くのスポーツクラブがファントークンを発行し、話題となっている。

これらの動きを踏まえ、国内初となるプロスポーツチームの上場を果たし、地域に根ざした循環型のチーム運営を目指す「琉球アスティーダ」、ブロックチェーン技術を利用したトークン発行プラットフォーム「FiNANCiE」、株式投資型クラウドファンディングサービス「イークラウド」の共催で、スポーツ×クラウドファンディングをテーマとしたイベントが開催された。今回は、その概要をイベントレポートとして一部抜粋してお届けする(以下、敬称略)。

転職サイト おすすめ
転職エージェント おすすめ

◆ 登壇者紹介

琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社 代表取締役 早川周作

2018年2月、沖縄から卓球のプロリーグであるTリーグに参戦する「琉球アスティーダ」やトライアスロンチーム、飲食店を運営する琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社を設立し、代表取締役に就任。2021年3月、プロスポーツチームとして日本初となる上場を果たす。2021年4月、女子チームに参入し九州アスティーダ株式会社を設立し、取締役に就任。また明治大学ビジネススクール講師に就任。国立大学法人琉球大学客員教授に就任し、業種業界を超えた幅広い分野で活躍している。

株式会社フィナンシェ 取締役COO 田中隆一

外資系コンサルティング会社を経て、2002年DeNA新規事業の立ち上げを経験する。2005年ノッキングオンを共同創業。ゼンリンデータコム社へ売却後、2010年ソーシャルゲーム最大手Zynga所属。2012年シンガポールを拠点としたUniconにてブロックチェーン技術を研究。2019年株式会社フィナンシェを共同創業。

イークラウド株式会社 キャピタリスト 佐々木暸

イークラウド在籍キャピタリスト。スポーツクラブやVCで勤務経験後、2020年より現職。クラウドファンディング×スポーツでnote更新中。

各社取り組みの紹介

まず、冒頭で各社取り組みの紹介が行われた。

琉球アスティーダ

琉球アスティーダは、T.Leagueと呼ばれる国内の卓球リーグに所属するプロスポーツチーム。人口2万人の村・中城村に本拠を置く。運営元の琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社は2018年2月に設立され、プロスポーツチームとして日本初の上場を果たしたことで大きな注目を集めている。

代表取締役を務めるのは早川周作氏。同氏は大学3年生の時に起業して、25歳で会社を売却した後、元首相の秘書として経験を積み、28歳で衆議院選挙にチャレンジした経験を持つ。現在は「日本のベンチャーを育てる」という意志のもと、幅広い事業を展開している。常日頃から強い地域/強い者に光を当てるのではなく、弱い地域/弱い者に光を当てる活動に注力してきた早川氏は、「卓球という競技はお金をあまりかけることなく、日本人の体格にあった形で世界で戦うことができ、多くの人々に夢を与えることができる競技だ」とその魅力を力説する。

近年、日本における卓球のイメージは有名選手の誕生や2016年のリオ五輪でのメダルラッシュなどをきっかけに、メジャーでかっこいいスポーツとして認識されつつある。競技人口は約800万人。幼児から高齢者まで幅広い層が楽しむことができるだけでなく、男女ともにメダルが狙えるのが魅力だ。しかし、ロシアやスウェーデン、ドイツ、中国などの卓球強豪国がプロリーグを持つ中、日本だけがプロリーグを持っていなかった。

上記の課題意識を踏まえ、東京・両国の国技館で「卓球を国技にしよう」というスローガンのもと、2018年10月に立ち上がったのがT.Leagueである。「世界一の卓球リーグを実現する」を理念として掲げるT.Leagueは、テレビをはじめとした各メディアでも大きな注目を集めている。

また、琉球アスティーダでは、「ONE九州、九州全土で旋風を起こす」というビジョンのもと、女子プロ卓球チーム・九州アスティーダを設立。2021年9月からリーグに新規参戦する。

これまではプロスポーツチーム運営と言えば大手資本の企業PRとCSRの役割とイメージが強く、人気スポーツが大都市で展開される傾向があった。しかし、今後は地元資本による地域に根差した経営体制の構築によって、地方都市やマイナースポーツでも成立するようになるという。そして、そのためには地域で完結できる経営基盤の構築が必要不可欠であると早川氏は述べる。

収益基盤については、現在は主にサポーター(チケット、ファンクラブ)とスポンサーによって支えられる構造となっている。今後は収益を支えるユーザーの数を増やしていくことがポイントとなる。

これらを踏まえ、持続可能な安定した経営基盤を整備することが琉球アスティーダにとって必要だと考え、株式上場を活用するのが経営判断として最適であるという意思決定に至った。

琉球アスティーダでは、株式上場を活用した上で、以下のような地域一体型プロスポーツ支援モデルの形成を目指している。

2021年3月に上場を果たした琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社だが、「今後はブロックチェーンを活用した資金調達がどんどん伸びていく」という考えのもと、FiNANCiEのプラットフォームを活用してアスティーダトークンを発行した。

アスティーダトークンの販売売上は、主に琉球アスティーダのクラブ運営、強化費用、2021年内に開催予定の「アスティーダフェス2021-2022」イベント企画・運営費に利用される。

また、クラブトークンを購入した人向けにクラブの投票企画への参加や参加型イベントの招待、特典抽選、アスティーダフェスでの特別な体験などへ応募することができる。

その他、琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社では様々な事業を展開している。

今後のビジネス展開としては、「スポーツ×食×エンターテインメント スポーツバルの店舗展開」「オリンピックでメダルを取れる選手を育てるアスティーダ卓球アカデミーの店舗展開」「九州と沖縄を代表するチームへと成長」「世界への進出」等を見据えているという。

フィナンシェ

FiNANCiEは、ブロックチェーン技術を利用したトークン発行型ファンディング&コミュニティ。

元々、モバイルの決済事業を行っていた田中氏がブロックチェーンに出会ったのは2016年。ブロックチェーンとは、コミュニティで運営維持する分散型台帳。その特性としては、「堅牢性」「透明性」「流動性」が挙げられる。ブロックチェーン技術に下支えされたトークンは世界中で新たなデジタル資産として認められつつある。トークンには、FT(数量保有を証明するトークン)とNFT(唯一性を証明するトークン)がある。FTとしては、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産が該当する。一方、NFTはイラストやゲームのアイテム等が該当する。

海外スポーツとブロックチェーン活用事例

グローバルでは、エンターテインメントの分野においては特にスポーツ領域でNFTが浸透している。例えば、米NBAのデジタルトレカをNFT上で発行したり、NFL人気選手のトレーディングカードがNFTプラットフォーム「Opensea」で販売され、349枚のカードが全て売り切れになった。また、FCバルセロナのファントークンは2時間で1.4億円を売り上げたことで知られる。

さらに、サッカーチームでは、ユベントスやローマ、パリ・サンジェルマン、さらにはアルゼンチン代表がファントークンを活用している。最近では、メッシがパリ・サンジェルマンに移籍する際の契約金の一部をファントークンで受け取ったことが大きな話題となった。

トークンはクラブとファンとの間の新しいコミュニケーション手段として注目を集めている。実際、FCバルセロナでは、サポーターと選手・クラブとの新たなコミュニケーション手段として、サポーターによる応援メッセージ投票が行われている。

新たな収益源とコミュニケーションツールが生まれることで、ファンの共感と参加意識が高まり、より深いエンゲージメントを獲得することができる。また、初期段階から応援するインセンティブが生まれることもトークン化によって生まれる新たな利点の一つである。

このような状況の中、2019年3月にFiNANCiEのベータ版がローンチされた。現在では、20チーム弱のチームが参加しており、既に120のトークンが発行されている。ファンディングのみならず、ファンとの新たなコミュニケーション手段として積極的に利用されている。

FiNANCiEにおけるトークンとは、プロジェクトの応援を表すデジタルアイテムのことを指す。

トークンはFiNANCiE内で支援者に対して特典として提供することができるのが特徴だ。支援者は受け取ったトークンをコミュニティで利用したりマーケットで売却するなどが可能。琉球アスティーダはまさに今ファンディング中で、保有するトークンは投票券や特典に応募する権利として使用することができる。

トークンを保有したいユーザーが増えることで、トークンが二次流通していき、価格が需要と供給に応じて自動決定される仕組みとなっている。また、トークンを保有しているユーザーだけが入ることができるコミュニティでの限定情報やトークでサポーター同士で盛り上がることができる。

湘南ベルマーレでは、チーム応援グッズのデザイン案の決定にトークン投票を利用している。

また、試合の勝敗予想企画等にクラブトークンを配布するなど、より試合視聴を楽しむ要素を加えることが可能である。

トークン購入者は初回販売記念の限定デジタルカードをアプリ内で貰うことができる。

イークラウド

イークラウドの創業は2018年7月。既存産業×テクノロジーで新規事業を創出するXTech株式会社により設立され、大和証券グループから出資を受けているFinTech企業として知られている。

国内では2015年の金融商品取引法改正によって株式投資型クラウドファンディングが解禁され、2017年から開始された。これにより起業家は複数の個人から出資を募ることができるようになった。

現状、ベンチャー企業が資金調達できる金額は1年間に1億円以未満。また、個人投資家が投資できる金額は1社に対して1年間に50万円以下である。

起業家から見た株式投資型CFのメリットとしては、「約1億円まで調達可能」「最短1ヶ月で資金調達」「事業に共感する株主」が挙げられる。

個人株主を上手く活用している非上場企業の代表例として、英BrewDogが挙げられる。株主登録は11.4万人を超えており、コミュニティを形成し、事業推進にも活用している。

その他の例では、AFC Wimbledonが挙げられる。多額の建設費用を補うために株式投資型クラウドファンディングを活用し、3.3億円を調達した。株主は投資した金額によってVIPルームでの観戦や選手との食事会に参加する権利が付与される。

ちなみにイークラウドでは、株主増加の対策として、「大和証券グループとの資本業務提携を生かした株主属性確認」「電子契約による全株主との株主間契約スキーム」「電子的手段による株主総会開催スキームとツール」を提示している。

パネルディスカッション

次にパネルディスカッションが行われた。

ファントークンと相性の良い競技

佐々木:ファントークンと相性の良い競技などはあるのでしょうか?

田中:色々な競技で色々な使い方ができると思っています。欧州ではサッカーチームの事例が先行していますが、室内スポーツの方が演出の要素が大きく、その意味では、サッカーよりもむしろ卓球やバスケットボールの方が向いているのかもしれません。

また、ファンとコミュニケーションを密に取っているスポーツクラブはトークンと相性が良いと思います。イベントがあった際に買われることもあります。FiNANCiEでは、売っても買ってもチームの収益にプラスになる仕組みを提供しています。

佐々木:現状、一番、うまくいっているチームなどはあるのでしょうか?

田中:それぞれのチームが色々な使い方をされています。ここが良い悪いというのはありませんが、特に先駆的な取り組みをされているチームとしてはサッカーのSHIBUYA CITY FCが挙げられます。トークンの購入と絡めたり、予想の企画をやってみたり、フットワークの軽いチームがトークンと非常に相性が良いと考えています。

トークンの価値向上施策

佐々木:メッシ選手の事例をご紹介いただきましたが、他にトークンの価値向上施策はありますか?

田中:メッシ選手の事例では、話題性があって「トークンの価値が上がりそう」という期待値があったため、パリ・サンジェルマンのトークン価値も上がりました。トークンの価値向上施策で言うと、今まさにアスティーダさんが取り組まれているように、勝敗予想も含めて楽しんでやってもらう企画が増えると、継続的にトークンの価値が上がっていく一つの要素になるのではないかと思います。

早川:世の中の全体的な流れの中で、海外では当たり前のようにスポーツがくじ化されています。試合結果によってトークンの価値が増減するなど、トークンを持っている方々のメリットをさらに追求していく必要があると考えています。卓球というのはある意味ではすごく特殊な競技で、先に3点取った方が勝ちで団体戦ということもあって、オーダーが試合の結果に大きく影響します。そのため、ゲーム性がとても強い。このゲーム性・ゲーム要素を増やしていくことによって、ユーザーのエンゲージメントをさらに高めていくことができると思っています。その意味で、スポーツトークンには大きな可能性があると考えています。

佐々木:スポーツをよりエンタメっぽくするという文脈も含まれるのでしょうか?

早川:エンタメ要素もありますし、スポーツを盛り上げていく/日本という国を「スポーツ立国」にしていくための起爆剤となるのがトークンの活用だと思います。ファンが熱狂し、勝った・負けたでトークンの価値が増減する。ゲーム性を高めた形で楽しんでいただく。そうすれば、より多くの方々にスポーツに対して関心を持っていただけると思います。

田中:一般的なゲームのコミュニティに比べて、ブロックチェーンのゲームのコミュニティは熱狂的で温かいと個人的に感じています。やはりトークンを持っていて、ステークホルダーに近い形なので、自分ゴトとして楽しんでもらえているのだと思います。ファンが増えることに対してインセンティブがあるので、どうすればファンを増やせるのかを考えるのが面白いところだと思います。

早川:スポーツ界全体で考えてみても、皆さんには様々なチームのトークンを持ってほしいと考えています。今は、戦う時代ではなく共に生きる時代です。我々はJリーグチームとも包括協定を結んでいます。FiNANCiEさんのプラットフォーム上に様々なユーザーが集まってきて、良い循環が生まれると良いと思います。中世の時代からスポーツや芸術は永遠に消えていません。ものすごく感情が動かされるわけです。共に手を取り合って、テクノロジーの力を借りながら価値をどんどん上げていく。プラットフォームの価値を上げていく。事業としても非常に面白いなと思っています。

佐々木:田中さんのスライドにも記載されていた「Sorare(ソラーレ)」という海外のサービスのように、サッカー選手のNFTを集めて選んだ後に試合結果に応じてその選手が活躍すればトークンが貰えるゲームが海外では流行しています。FiNANCiEとしてそのようなサービスは考えていますか?

田中:リアルな熱狂をいかにオンラインに持っていくか、かつオンラインでそれをいかにエンパワメントしていくかが重要で、クラブトークン以外にも様々な方法があると思っています。「Sorare(ソラーレ)」はカードゲームですが、色々なモノに価値があって、そういったものをデジタルで可視化していくという意味では、我々としてもまだまだやるべきことがある。将来的には海外に展開することも含めて取り組んでいきたいですね。

佐々木:個人がトークンを発行してファイナンスするケースもあるのでしょうか?

早川:まずはチームトークンですね。トークンの成長自体がチームの成長につながり、個人の成長につながる。その先に個人のトークン発行を考えています。

田中:まだまだアーリーアダプターが中心ですが、将来的には個人にも開放されていくと思います。まずはチームの信頼性を使って、安全な場を作っていくことが大切だと考えています。

質疑応答

最後に、質疑応答が行われた。

投機目的のユーザーが現れた場合の対処法

佐々木:投機目的のユーザーが現れた場合はどのように対処していくのでしょうか?

田中:FiNANCiEでは、アクティブスコアというコミュニティ内スコアを用意しており、コミュニティに積極的に質の良い投稿をしている方に対してメリットがあるような仕組み作りを考えています。

早川:投機目的の投資家の方々も入っていってもらうことで、場が活性化していく面もあると思います。特に気にする必要はなく、次第に浄化作用が働いていくのではないかと考えています。

株式投資型CFとトークンとの棲み分け

早川:株式会社という枠組みの中で、一人でも多くの方々に応援していただくコミュニティを作るためには、テクノロジーの力を借りる必要があります。我々としては、株式でもトークンでも調達できるという状況を作り、スポーツにお金を出したい方々に対して様々な手法を提示する。それによって、新しいものをどんどん世の中に出していく。それが今のスポーツ界に必要なのではないかと考えています。

田中:今後、色々なサービスが出てくる中で、ビジネスプロデュース能力がさらに求められるようになると考えています。我々自身も様々な面でサービスをアップデートしていく必要があると考えています。

佐々木:既存のスポーツのビジネスモデルというのは、集客して、チケット売って、スポンサーを集めて、といったものが主流でしたが、アスティーダさんは色々なテクノロジーを使って、色々なビジネスモデルを試しているので、外から見ているだけでも非常に興味深いなと感じています。

早川:一度限りの人生において、固定化された考え方に固執するのではなく、変化に対応することが大切だと考えています。本来の志を叶えるために、あらゆる力を借りて、適切な経営判断を行っていく必要があります。これが経営者に求められているのではないかと思います。