「B2B SaaSエンジニアが語るマネジメント論」米元 智氏×郷田 祥史氏×渋谷 亮氏×戸本 裕太郎氏×曽根田 侑也氏×堀 譲治氏

インターナルマーケティングで織り成すマルチプロダクト開発(戸本 裕太郎氏)

登壇資料:インターナルマーケティングで織り成すマルチプロダクト開発

戸本:はじめましての方が多いと思いますので、自己紹介をさせて頂きます。戸本と言います。インフラ業界でエンジニアリングに携わってきた人間です。現在は、株式会社Linc’wellで医療業界向けのシステム開発に取り組んでいます。前職では、電力業界の非常にレガシーなシステムの開発に取り組んでいました。

ML(マシンラーニング)やブロックチェーンが好きです。個人的にプライベートチェーンを構築したりもします。(戸本氏追記:全然関係ありませんがこの記事を執筆中に引っ越すことになり、自宅の巨大リグをたたまざるを得ない状況になりました。あー・・・だれか電気代固定で運用できる場所を提供してくださらないかな・・・)

株式会社Linc’wellについてご紹介させて頂きます。創業は2018年1月。従業員は13名で、エンジニアは私を含めて6名という状況です。何に取り組んでいる会社かと言うと、ちょっと珍しいのですが、「病院」を作っている会社です。ですので、ITだけではなくて「箱」を作っています。私はエンジニアとして、患者さんの「体験」を良くするためのSaaSサービスの開発に取り組んでいます。

一般的に、病気に関わる事業というと、病院での体験をイメージする方が多いと思いますが、患者にしてみれば、病気というのは一日を通して辛いものですよね。弊社はそのような患者のコンテキストを通して、病院内外でより良い体験を広げていくことに注力しています。弊社のサービスを活用して頂くことで、来院前に「予約が簡単にできる」、来院中に「アルゴリズムで素早く診察入り」「iPadで院内検診」「クレカ事後決済」、来院しなくても「オンラインで診察」「薬をEC決済して宅配」等が可能になります。(※オンラインでの診察は、法律上、一部の自由診療に限られます。)

これは病院内外にある複数の顧客接点に対応するということなので、会社のフェーズに比べてプロダクトの数は多いです。具体的には、ウェブ/モバイル/LINE/ECサイト等がありますが、とにかくプロダクトが多い。最初の頃は、1チーム体制で開発を進めていたのですが、最近、そのやり方では、「うまくいかないな」と思うことが多くなってきました。

これから話すことは弊社の課題なので、皆さんにも当てはまるかどうかについては定かではありませんが、弊社のエンジニアには、BtoB ー医療ではBtoDtoC (Dはdoctor) と呼ばれたりしますがー において、「すべてのプロダクトに携わりたい」というタイプの人間が多いです。こういう事業モデルなので、なるべくすべての患者接点に関わりたいというマインドの人が集まってくるのは、当然ではあります。

とはいえ、このマインドを持った集団、実業務となると、おかしな現象が起きます。ユーザーの要求を叶えるべく、設計やプラクティスを議論するときは非常に盛り上がります。仲もいいですし、素晴らしいチーム議論が行われています。ただ、プロダクトが多いが故に、選択肢や共通部分の依存が密接で、そのようなケースで「共感」のみで議論を行うと、「あれもいいね」「これもいいね」で軸があいまいになりやすく、現実的なアクションがふわっとしたままミーティングが終わっていくことが散見されました。日本人特有の譲り合い精神みたいなものも関係あるかもしれませんね。あと、ファシリテーションやビジネス感覚をエンジニアに求めるのは酷とも思います。議論がディストピア化するとコスト感覚も失われていきます。

で、これは近くで見ていて「やばい」と感じました。何が「やばい」かと言うと、優先順位が存在していないことなんですね。でも、せっかく良い議論ができているのに、そこに割って入って、偉そうにファシリテートするのもなんか違う。それをやったら結果は出るけど、彼らの思い描いているカルチャーでは無くなってしまって、楽しくないです。なので、最初に取り組んだのは、彼らに「ポジション」を取ってもらうことでした。ちょうど一人一プロダクトくらいの組織なので、普通に一人一プロダクトを担当してもらい、お互いのポジションでどのような実装がベストなのかについて交渉してもらうような組織に変えました。

これ、普通のことしか言ってないように思われますが、最初は大反発というか、全く受け入れてもらえませんでした。今まで「全部やりたい」っていう熱量でコミットしてきた人たちなので、(患者接点をすべて押さえるという事業モデルからして、自然とそういう振る舞いを呼び込むんですね)領域を縦割りにされたら不自由さを伴うというか、自分がスタートアップに貢献するにあたってすこぶるやりにくいわけです。もうね、「嫌です」とか「なんすかそれ」とか「そういうのリンクウェルっぽくないっす」とか散々言われまして。

我々エンジニアの思いの丈の根幹って、時に「信念」というか、「やるからには〜」みたいなアツい想いがあるんだと思い知らされました。だから、彼らの気持ちについて、「それはそうだな」と思いまして、彼らを変えようとするのではなく、「インターナルマーケティング」の考え方を取り入れることで工夫しました。

インターナルマーケティングというのは、簡単に言うと、従業員満足度を高めるための施策で、社内の人間に向けたマーケティングのことです。一般的に、マーケティングというのは顧客に対して行うものですが、そもそも社員が働きやすい環境を整備したり、働く上での目的をキチンと設計しないと、エンドユーザーに対して良いものが作れないという話です。良く言われている話ではあるのですが、これをインターナルマーケティングと言います。

とはいえ、冷静になれば10人ちょっとの会社ですから、仕組みを入れるリソース自体ないと思っています。ですから、私が行ったのは非常にシンプルな行為で、エンジニア達に「今日、仮に一つのことしか出来ないのであれば、一番やりたいのはどれですか?」と問うことでした。このような聞き方をすると、面白いことに、最初は「えっ?」となるんですが、だんまりの後、最後は、凄くしっかりした目で「私はこれがやりたいんだ」って主張してくるんです。

言うなれば、「スラダンの三井」現象です。自分にとっての「一番」を自ら見つけてもらうことが大事だと言うことですね。

弊社には、私以外にエンジニアが5名在籍しているのですが、このような問いかけをすると、顔つきの違いはあれど、必ず「私はこれをやりたい」と宣言します。即答でプロダクト名しか言わない人もいます(笑)これ、一様に答えてくるのが不思議な現象だと思うのですが、クリエイティビティが源泉の人間というのは、自分の欲求をコミュニケーションすることに限っては、非常に正直ということかと思います。とにかく自分の一番を見つけてもらうことが大事でして、その段階で、「じゃあ、それでいきましょう」と私から伝えます。

「やりたいこと」と「やるべきこと」が重なると強い、という話は良く言われることだと思うのですが、私のような立場でより大事なことは、「やりたいことにやるべきことが重なっているようなモチベーション設計をすること」だと考えています。

弊社では、制度としてのOKRは採用していないのですが、少しカッコつけた言い方をすると、この状態は、「セレンディピティによって、OKRが自然に発生している状態」と言えるのではないかと考えています。一人一プロダクトをリードしてもらうわけなので、結果的に本人がチームリーダーであり、元が一人なので個人のOKRがチームのOKRに直結します。また、会社のグロースに燃えて入ってきているわけなので、そのマインドは組織全体の目標を意識したものになっています。CTOが下手な策を講じるよりもよほど自然で、いけてますよ。

また、いい意味で副作用もあります。各々繁忙してくると、自分のプロダクトをローンチしたり仕事をクロージングまで持っていくためには、余裕はないので、お見合いミーティングしている場合ではないという意識になっていきます。ですから、当たり前ですが、交渉が作用し、やり切るわけです。そうすると、結果的に、彼らが以前は失うと思っていた権利みたいなものに対して「ポジションをとってもやれるじゃん」ということに気づき始めます。これは、コミュニケーションを工夫する中で、リードで必要とされる力が身に付いたということだとすると、私の立場としては、かなり「棚ぼた」なことではないでしょうか。

とはいえ、制限もあります。希望が重なってしまうこともあるわけですし、そういう時はなんとかせざるを得ません。また、この話はすべての組織に応用できるかと言うと、そんなことは無いだろうと思っています。あくまでも弊社のような特徴を前提にした小さい組織での「工夫」の話です。笑い話ですが、仮に「誰も担当したくない」という役割が発生したら、私が担当することになります(笑)そういうわけなので、万能ではありませんが、PMFを目指して日々走る小さな組織においては、わりとベターなプラクティスの一つなのではないかと考えています。

最後に、弊社の宣伝をさせて頂きたいと思います。実は、ここ田町にも病院があります。実は田町発祥でして、週7日・夜21時まで開院しています。「クリニックフォア田町」という病院です。エンジニアは夜遅くまで仕事をすることもあると思いますが、院内処方ならばたった15分間で薬をもらうところまでいける病院です。仕事をサッと抜けて、訪れることもできるかと思います。

ちなみに、先程調べたのですが、スマートキャンプ本社からも11分でいける場所だそうです。

また、興味を持って頂けましたら、実際に来院して頂けると良いと思います。それでは、本日はどうもありがとうございました