ビジネスパーソンなら知っておきたい経営用語「KPI」の基本

以前、仕事の関係で、KPI設定の方法について調査する機会がありましたので、備忘録も兼ねて、以下に調べた内容を記載していこうと思います。

KPIとは

KPIとは、「Key Performance Indicator」の略称であり、「重要業績評価指標」と訳されます。簡単に言えば、事業成功の鍵を数値目標で表したものであり、もう少し具体的に言えば、ある目標を達成するために必要なプロセスを評価し、可視化するために用いられる指標のことを指します。

KPIの歴史

KPIの歴史は意外に新しく、1992年のハーバード・ビジネス・レビューの論文「新しい経営指標-バランスト・スコア・カード」で初めて紹介されたことで知られています。経営者にとって、KPIを適切に設定し、定期的にモニタリングすることは、非常に重要な経営上の活動であると言えます。例えば、楽天の三木谷浩史会長兼社長は、毎朝、全事業のパフォーマンスを「Daily KPI Report」という日報で確認しているそうです。

■ 参考:KPI/KGI/CSFの関係性

KPIと混同されがちな用語として、KGIが存在します。KGIとは、「Key Goal Indicator」の略称であり、最終的に達成したい最も重要な数値目標のことを指します。言うなれば、KPIよりも一つ上位の概念と言えます。営業組織であれば、売上目標数値等が、事業開発であれば、ユーザー数などの目標数値がKGIに該当することが多いようです。また、KGIを達成するために、取り組むべきプロセスの中で、最も重要な要素のことをKSFと呼びます。KSFは、「Key Success Factor」の略称であり、「重要成功要因」と訳されます。CSFを数値で表現したものがKPIです。

KPIの設定方法

次に、KPIの設定方法についてですが、基本的には、以下のステップを踏まえ、KPIの設定を行います。

KPI設定のためのステップ

  1. KGIの確認
  2. 現状とKGIのギャップの確認
  3. 事業の数式によるモデル化
  4. KSFの設定
  5. KPI設定
  6. 運用性の確認
  7. KPI悪化時の対策と有効性の事前検討
  8. 関係者との合意
  9. 運用
  10. 継続的な改善

具体的にKPIを設定するのは、このステップの中の「5.KPI設定」になります。そして、そのために重要なのは、「4.KSFの設定」であり、KSFを特定することができれば、KPIの目標設定はスムーズに決まる形が多いように思います。

■ 参考:良いKPIの条件

少し雑に言えば、KPIにも「良いKPI」と「悪いKPI」が存在します。ガートナーのポール・プロクター氏は、「難解なKPIには意味がない」と語り、良いKPIの条件について以下のように言及しています。現場の実務において、KPIを設定するケースに直面した場合には、下記の項目に目を通した上で、今、設定しようとしているKPIが適切なものなのか否かについて確認すると良いと思います。

良いKPIの条件

  1. ビジネス成果との因果関係を正当化でき、明確に定義されている
  2. 先行指標としての役割を果たす
  3. 対象者が具体的で明確である
  4. 対象者がビジネス決定を下す際に役立つ
  5. ITを専門としない対象者も理解できる
  6. 緑から黄、赤へと変化し、アクションを促せる
  7. 評価指標にビジネス環境がかかわるとき、対象者の関心の度合いが高まる

KPI設定の失敗事例

KPI設定の失敗事例を以下にいくつか記載しておきます。頭の片隅で覚えておくと良いかもしれません。

  • 顧客単価」のみをKPI にした場合、高額商品の強引な売り込みにより、顧客離れが発生
  • 新規サービスの導入時、「新規顧客獲得数」を KPI としていたが、市場成熟後にKPIを変更せず、「解約率低下」や「顧客単価UP」といった指標に移行することに失敗
  • 売上、利益率、時間当たり生産性、アプリダウンロード数など、測定すべきKPIが多岐に渡ってしまう

ITビジネスで使用される代表的なKPI

■ メディア

メディア事業を運営する場合、KPIとして、まずはPVを追ってしまいがちなのですが、これもKGIとして何を設定するか次第で、設定すべきKPIも変化します。具体的には、例えば、グーグルアドセンスをはじめとしたアドネットワークで収益化を図る場合であれば、PVをKPIとして設定することは理にかなっていますが、記事広告で収益化を図る場合であれば、ユニークユーザー(UU)数をKPIとして設定する方が(広告主の立場から見れば)望ましいかもしれません。また、NewsPicksのような課金型メディアであれば、「課金転換率」、「退会率」、「平均課金期間」あたりが重要なKPIとなるかもしれません。

■ ECサイト

ECサイトの場合、例えば、車のような高級商材であれば、一度購入すれば、しばらくは買い換えないことが想定されるため、UUをKPIとするのが適切でしょう。しかし、例えば、洗剤のような消費財であれば、何度もサイトを訪問する可能性があるため、「UU」ではなく、「セッション数」をKPIとするのがより適切な場合もあるかもしれません。

【事例紹介】IT企業が重視しているKPI

■ LINE

2018年12月期 決算説明資料(P5)を見ると、LINEでは、以下の項目をKPIとして重視していることが見て取れます。

  • 月間アクティブユーザー(MAU)
  • DAU/MAU率

参考:2018年12月期通期 決算説明会(LINE株式会社)

■ ヤフー

2019年度 第1四半期 決算説明会資料(P5)を見ると、ヤフーでは、以下の項目をKPIとして重視していることが推察されます。

  • コマース:eコマース取扱高
  • メディア:月間ログインユーザーID数
  • 金融:クレジットカード取扱高

参考:ヤフー株式会社 2019年度 第1四半期 決算説明会

■ 食べログ(by カカクコム)

2019年3月期 決算説明資料(P14-P15)を見ると、食べログでは、以下の項目をKPIとして重視していることが見て取れます。

  • 月間利用者数
  • 有料サービス加入者数
  • 有料プラン契約飲食店舗数
  • ネット予約人数
  • 四半期平均ARPU

参考:Kakaku.com 2019年3月期 決算説明資料

ただし、食べログは口コミや写真があってはじめて成立するサービスということもあり、初期はレビュー数と写真数とレビュアー数だけを追っていたようです。このあたりについては、かなり過去の記事ですが、事業構想2014年1月号で食べログの村上敦浩氏とRettyの武田和也氏の対談で詳細について言及されていますので、内容を確認しておくのも良いと思います。

参考:口コミグルメサイトの成長曲線

■ Abema TV(by サイバーエージェント)

2019年3月期 決算説明資料(P25-P30)を見ると、Abema TVでは、以下の項目をKPIとして重視していることが推察されます。

  • ダウンロード数
  • WAU
  • 総視聴時間

また、上記のKPIに加え、Abema TVでは、5分以上継続して視聴するユーザーの割合を示す「5分視聴化率」をKPIとして設定しています。当初は、事業部視点での目標数値からブレイクダウンして、KPIとして一般的な訪問者数ダウンロード数といった指標が候補として上がったようです。しかし、これはあくまでも「ユーザー数をいかにして拡大していくか」という視点であり、ユーザーの満足度を計測する指標としては、適切とは言えませんでした。そこで、「ユーザーが満足している状態とはどのような状態か」について議論した上で、「一つの動画を見終える状態」という答えに到達し、その結果、コンテンツをきちんと見たユーザー像を「ある一定の時間を連続して視聴したユーザー」と定義し、最終的に、「5分視聴化率」に落ち着いたそうです。

【事例紹介】独自性のあるKPI設定

■ サイゼリア

サイゼリアでは、従業員1人が1時間で生み出す粗利益を表す「人時生産性」をKPIとして活用しており、3,000円/人時程度とされる業界平均を大きく上回る4,000円/人時前後の生産性水準を最終的には6,000円/人時にまで高めようとしています。

参考:企業分析レポート サイゼリヤ 公益財団法人 日本生産性本部生産性総合研究センター

■ 丸井グループ

丸井グループでは、女性の活躍を推進すべく、女性の活躍促進に関する以下の7つのKPIを掲げています。

  1. 女性活躍浸透度
  2. 女性の上位職志向
  3. 男性社員育休取得率
  4. 育児フルタイム復帰率
  5. 女性リーダー数
  6. 女性管理職数
  7. 女性管理職比率

参考:「多様性」を活かす組織づくり 丸井グループ 公式HP

■ SBI証券

SBI証券では、コールセンター部署において最も重視しているKPIとして、「ありがとう率」があるとのこと。「ありがとう率」とは、コールセンターの応答件数のうち、お客様に「ありがとう」等の言葉を頂いた割合を量・質の双方を加味したポイントに置き換えて示すものです。

参考:最重要KPI”ありがとう率”で意識改革 生産性偏重からの脱却を実現

執筆者:勝木健太

1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティング、有限責任監査法人トーマツを経て、フリーランスの経営コンサルタントとして独立。大手消費財メーカー向けの新規事業/デジタルマーケティング関連のプロジェクトに参画した後、大手企業のデジタル変革に向けた事業戦略の策定・実行支援に取り組むべく、株式会社And Technologiesを創業。執筆協力実績として、『未来市場 2019-2028(日経BP社)』『ブロックチェーン・レボリューション(ダイヤモンド社)』、寄稿実績として、『キャリアハック』『Forbes JAPAN』『ダイヤモンド・オンライン』『BUSINESS INSIDER JAPAN』『ITmedia』等がある。Facebookアカウントはこちら / Twitterアカウントはこちら